秋にふさわしい噺を考えてみると……。│柳家三三「きょうも落語日和」
イラストレーション・勝田 文
日本では四季を通じて、いろいろな楽しみを季節ごとに味わっていますが、秋を感じられる落語︱︱というのが実は少ないのです。『目黒の秋刀魚』という有名な噺がありますけど、そのほかは?となると「え? ちょっと待って。あのね、えーと
……」と本職の落語家でもすぐには思いつかなかったりして。
風流ーー秋といえばそんなイメージかもしれません。
もの静かで、少々わびしささえ感じる風物や行事が笑いとはつながりにくいのかしら?
秋の夜長、夢中になって碁を打つ家に、これまた碁が好きな泥棒が入る……『碁泥』。十五夜の晩に碁に夢中になったがために大金を紛失し、大切な友人との仲に亀裂が生じて
……『柳田格之進』。釜茹での刑で命を落とした大泥棒・石川五右衛門の末裔が、釜が仇と、十五夜の晩に豆腐屋の大釜を盗む……『釜泥』。どれもが大笑いするネタではなく、“クスリ”とおかしみがあったり、涙ありの人情噺であったり、まあどちらかといえば地味な噺が中心です。
さつま芋を扱った落語(『芋俵』や『真田小僧』)もあるのですが、秋のネタかと問われると……はっきりしないのが本当のところ。
よく落語会の企画で「四季の噺をテーマに演目を決めましょう」なんて提案があるんです。一度、二度はよくても、回を重ねると大抵は「秋の落語」がネックになって行き詰まります。
とはいえどことなく風流を感じさせる秋にのんびり、あるいはしみじみと「落語日和」。これはほかの季節にはない味わいですよ。
柳家三三(やなぎや・さんざ)●落語家。公演情報等は下記にて。
http://www.yanagiya-sanza.com
『クロワッサン』1005号より
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