「生ハムは『作る』という言葉では表せない、発酵、熟成という時間の経過が必要な『仕込みもの』。それ自体の味わいもですが、発酵調味料としても使えるんです」と辰巳さん。
「ヨーロッパでは発酵調味料を持っていないでしょう。ですから、生ハムの切れ端をちょっと入れて、料理の底味を上げるんです。刻んでトマトソースに入れれば奥行きのある味になる。サイの目に切って、ゆっくり炒めて脂分を出して、その脂を使うなんて芸当もできる。ステーキの仕上げや魚のソースに加えれば味にぐっと深みが出る。カラカラに炒めたものは、赤ぶどう酒と食べたり、ピッツァにパラパラとふったり。骨はスープを引き、余すところなく使っていく」
定期的に試食会も開かれている。今回は、東京・恵比寿にあるフレンチレストラン『モナリザ』が会場だ。総料理長・河野透さんは、25年前に初めて辰巳さんの生ハムを口にしたときの衝撃を覚えているという。
「ほかでは味わったことのない味。クセやにおいはないのに、旨み、風味がぎゅっと凝縮されている、まさに熟成の味わい。いつでもいくらでも食べられる。最高峰の生ハムと言えます」
集まったのは、茨城の栗豚を提供し、生ハムの栄養について研究する東京大学大学院農学生命科学研究科准教授の李俊佑さん、早稲田大学理工学術院教授の中尾洋一さん、仕込みから参加している『グランド エル・サン』料理長の片倉忠直さんだ。片倉さんは、山形・庄内で生ハム作りを計画中でもある。