からだ

【後編】危険な血糖値の乱高下を防ぐ、糖質と脂質の上手な摂り方。

健康を害するだけでなく、肥満の要因ともなる血糖値の急上昇、急降下。糖質と脂質の正しい摂り方を知って太らない食習慣を。
  • 撮影・岩本慶三 ヘア&メイク・外山友香(大平さん) 文・一澤ひらり

食後血糖値の上昇度合いを示すGI(グライセミック・インデックス)という指標がある。太りにくい食べ方を効率的に実践できるありがたい指標だ。その研究者である金本郁男さんに、大平一枝さんが望ましい食事法や有効な食材について聞いた。

大平一枝さん(以下、大平) 食事で困ってしまうのはお昼です。外食が多いのですが、糖質と脂質を気にしながらも、ついフライドポテトとかを頼んでしまいます。

金本郁男さん(以下、金本) 芋類のなかでもじゃが芋は血糖値が上がりやすいんです。食べ始めてから食後2時間までに血糖が上昇して下がる血糖上昇曲線下面積が、ブトウ糖を摂取したときを100とすると、ブドウ糖と同じ糖質量のごはんとパンは80ぐらいで、じゃが芋も同等なんです。

大平 白いごはんと同じぐらい血糖値が上がりやすいんですね。フライドポテトは脂質もダメですよね

金本 油脂は高カロリーだから敬遠されがちですが悪い面ばかりでなく、血糖コントロールに有効な油もあります。それに食べたものが胃から腸へいく速度を遅くする作用や、消化物をコーティングして食後血糖値の上昇を抑える働きも期待できます。

大平 それは知りませんでした。油を摂取するなら体にいいというオメガ3の亜麻仁油とかえごま油とかを使うようにしています。

金本 オメガ3は体内では生成されない必須脂肪酸で、血圧を下げたり、中性脂肪を減らす働きがあります。酸化しやすいので加熱しないで、サラダやスムージーに入れて使うといいのですが、でも正直、あまりおいしくなくて私は苦手です。

大平 ちょっとクセがありますよね。

金本 サバやイワシなど青背の魚を食べればオメガ3のEPA、DHAが摂れるし、植物性の油ならオリーブオイルで充分じゃないかと思いますね。加熱にも強いですから。

大平 私も調理するときはオリーブオイルです。

金本 一時期、サラダ油などに含まれるリノール酸がコレステロールを下げるともてはやされましたが、体に炎症物質を作ることがわかってきました。でもオレイン酸が豊富なオリーブオイルはLDLコレステロールのみを減らして、血管を若々しく保つ働きがあります。生でも加熱でも使えますから優秀ですよ。

大平 ふだんは自分でドレッシングを作るのですが、市販のドレッシングも時折使うとおいしくて、ただ味が濃いのでダシで薄めるとかして使っています。野菜サラダを食べていい気になっちゃうけれど、市販のドレッシングの糖質って気にしたほうがいいですよね?

金本 油は高カロリーだからノンオイルドレッシングを選びがちですけど、体のためにはオメガ3の油やオリーブオイルなどの良質な油を利用したほうがいいと思います。

大平 野菜サラダはダイエットの最後の砦みたいなところがありますから、ドレッシング選びは重大です。

金本 ところで、同じ糖質でもどうやって摂るかで変わってくるんですね。たとえば食パンはトーストにすると血糖値が上がりにくくなりますし、いったん冷凍して解凍したパンもでんぷんが消化されにくい性質に変わるので上がりにくくなります。

大平 いつも摂取カロリーばかり気にしているので、自分に負けて食べちゃうときがあるんですね。でも糖質に意識を置いて、血糖値の上がり方に気をつけるという先生の考え方なら私にもできそうって思えます。

金本 一昨年の薬学会で発表したのですが、少量で血糖値の上昇を抑える働きがあって興味深いのが山芋です。ごはんだけ、ごはんに山芋をかけて食べたときの数値を比較するとごはんに50ℊ程度の山芋をかけて食べると明らかに血糖コントロールがよくなるんです。コンビニのざるそばに付いてくるとろろの小袋が40g。あの程度のとろろをごはんにかけて食べると血糖値が上がりにくくなる。ところが山芋を加熱すると、効果は半減するんです。

大平 同じ食材でも生と加熱では違ってくるんですね。いいことを聞きました。夕食にとろろごはんやまぐろの山かけとかも入れますね。

金本 おかずにも納豆、オクラ、めかぶなどのネバネバ食品を加えてください。水溶性食物繊維がたくさん含まれていますし、血糖値の上昇を抑えてくれます。

大平 私の場合、お酒を飲むことが多いのでその糖質が気になるのですが、血糖値スパイクに影響は?

金本 心配ご無用。お酒自体は血糖値を上げにくくするんです。

大平 エッ、本当ですか?

金本 ビール、日本酒、ワイン、ウイスキー、ウオッカ、すべてのお酒は血糖値を上げにくくします。飲み過ぎには注意が必要ですが、瓶ビール1本ぐらいだったら糖質は気にしなくていいですよ。アルコールを摂取すると、肝臓で糖質を作りだす糖新生という作用が抑制されるんです。だからアルコールを飲まないときより飲んだほうが血糖値は下がります。

大平 日本酒なんてとくに糖質がダメだと思っていました。これって人類を幸せにする話ですよね(笑)。

金本 お酒を飲むと食事時間が長くなるでしょう。同じものを食べるのでも、よく噛んでゆっくり時間をかけて食べたほうが血糖値の上がり方もゆっくりになっていいんですね。

大平 私が取材した家族や夫婦での食事時間が長い人たちには共通項があって、日本酒を飲んでいるんです。お猪口で差しつ差されつみたいな間合いがあって、会話を楽しみ、料理を楽しめるのがいいんでしょうね。

金本 それはいいことですね。健康面でも、家庭の和にもつながるし。

カロリーより糖質、低GI食を意識した3食。

【朝食】ドレッシングはポン酢にオリーブオイルを加えたもの。納豆には万願寺とうがらしとじゃこを煮たものを加えて。

【昼食】血糖値を抑えるためコーヒーに牛乳を加えたカフェオレ。ラップサンドはハーフサイズにして、バナナをプラス。バナナは食物繊維が豊富で栄養価が高く、1本で大満足。

【夕食)(右上から時計回りに)沖縄の沖縄料理、にんじんしりしりにツナ缶を加えて。お酒は血糖上昇を抑えるので、日本酒でゆるりと。鮭のアスタキサンチンは抗酸化力が強く免疫力アップ。めかぶとキムチの和え物はネバネバと発酵食のコラボ。ごぼうと切り昆布の松前漬け風は食物繊維がたっぷり。

『クロワッサン』941号より

●大平一枝さん 文筆家/朝日新聞デジタル&wで『東京の台所』連載中。著書に『紙さまの話』ほか多数。2月に『男と女の台所』が発売に。

●金本郁男さん 城西大学薬学部教授/薬学博士。2008年より現職。ゆるい糖質制限が持論。著書に、『朝食のとり方で病気にならない 太らない』など多数。

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