益子直美さんが湘南に引っ越したのは45歳のとき。3年にわたる不妊治療を卒業してすぐ、不動産業を営む知人に物件を紹介されたのがきっかけだった。
「決め手は大きな桜の木があったのと、果物の木。みかん、プラム、梅、色を感じられるお庭かな。初めて見たとき、癒やされたんですね」
50歳には「心房細動」による心臓発作で大きな手術をすることに。若々しい外見とは裏腹に、アスリートとして我慢を重ねた体は悲鳴を上げていたのだ。
「現役時代に無理したことは、後悔しましたね。若い頃は50代の自分がどうなるか想像もできなかった。いつまでも若くいられると勘違いしていました」
自分を労るようになったのはそのときから。次から次へ起こる体の変化も落ち着いて受け止められるようになったものの、夫に対するイライラが出始めたときは戸惑いが大きかった。
「『監督が怒ってはいけない大会』(小学生向けバレーボール大会。監督が怒ると罰則がある)の活動を始めていたし、そういう自分がショックで。海へ行って頭を冷やしたり、湘南ライフが救いでした。庭と海、富士山が見えて」
この春、ゆっくりと満開になった老木を目にし、今の自分と重ねた。
「『私、今蓄えているからね、もうひと花咲かせるよ』と夫に言ったら大爆笑。遅くてもいい、自分のペースで。もうちょっとかな、自由になれるまで」