からだ

教えて! 医師の高尾美穂さん。更年期の女性ホルモンとの付き合い方。

30代後半から減り始める女性ホルモン。
とくに、女性を健康に若々しく保ってくれていたエストロゲンを失うことで、体の中も見た目も大きく変化します。
では、補う方法はあるのか? セルフケアはどこまで必要なのか?
自身も更年期という医師の高尾美穂さんに、更年期かも? と悩む平松昭子さんが質問。
「知ること」こそ、女性ホルモンを味方につけ、望む人生を生きる第一歩だから。
  • 撮影・玉置順子(t.cube) ヘア&メイク・レイナ(高尾さん)、Tae(平松さん) イラストレーション・平松昭子 構成&文・越川典子

今までの自分とどこか違う、と感じたら、体を見直しましょう。

「更年期がつらい人と平気な人がいるのはどうしてなのかしら。」平松昭子さん(右)「違うのは当たり前なの。100人いたら100通りの症状、対処法がある。」高尾美穂さん(左)

5年前に血液検査をしたときには、「まだ女性ホルモンありますね」と診断されたイラストレーターの平松昭子さんも、今や堂々たるアラフィフ。
「最近、眠れない日が出てきた」と話す産婦人科医の高尾美穂さんに、あれもこれも聞きたいことばかり。さあ、同世代対談の始まりです。

平松 しばらく月経もないし、そろそろ私も更年期かしら、と感じていたところなんです。

高尾 私も絶賛更年期です。最近、寝汗で起きることもあって、これか、と。患者さんの訴えが実感できるようになりつつあります(笑)。

平松 それは心強いです! 実は私自身は、月経がなくなってきてよかったと思っているんですね。

高尾 え、それはどうして?

平松 20代から月経が重くて、一時期ホルモン剤で止めていたほど。それ以降も腰痛やむくみ、しびれ、イライラや怒りが収まらないなど、つらい時期が長かったんです。今は、逆にすごくラクになって。

高尾 あぁ、大変でしたね。

【女性のライフステージと健康】参考:厚生労働省 女性の健康づくり推進懇談会資料など

平松 一方で、同年代の友人たちは、ひどいホットフラッシュ、肩こりやめまい、指の関節の痛み、気持ちの落ち込みとかあるみたいで……。

高尾 更年期の典型的な症状ですね。症状は100とも200ともいわれるほど多様だから、自分の体に起きていることが更年期の症状なのか確信がもてない人も多いんです。

平松 私も、これから問題が出てくるのでしょうか。

高尾 個人差は大きいです。40代前半で閉経する人、60歳近くになっても月経のある人。ホットフラッシュがつらい人、あっても気にならないという人も。まずは自分がどう感じているかが鍵、と覚えてください。

平松 自分の感じ方、ですか?

高尾 そう。例えば、平松さんが感じている更年期の症状が「日常生活を送るのに支障がある」という自覚があれば、私たち医師は「更年期障害」を疑う。つまり、更年期の治療は“自覚がものを言う治療”ともいえます(下表参照)。そこが他の病気とは、大きく違う点ですね。

【更年期の不調レベルがわかる更年期指数(SMI)】

症状の各項目でどれか一つに○印をつけ、左欄に点数を書き入れて合計点を出すと、自分の状態がわかります。強度の目安は以下を参考に。

強…日常生活に支障があるほどつらく、今すぐなんとかしたい
中…我慢はできるけれど、なんとかしたい
弱…症状は感じるが、我慢できる程度
無…ほとんど感じない

参考:簡略更年期指数 SMI 小山嵩夫ら 1992

【0~25点】
上手に更年期を過ごしています年に1回は検診を

【26~50点】
食事、睡眠、運動など気をつけてムリのない生活を

【51~65点】
医師の診察を受け、生活指導、カウンセリング、薬物療法などを

【66~80点】
長期間(半年以上)の計画的な治療が必要

【81~100点】
各科の精密検査を受け、長期的な治療が必要

—————————————-
あなたの合計点 (       )点

平松 「私は更年期じゃない」と激しく否定なさる方も中には……。

高尾 更年期とは、閉経をはさんだ前後5年ずつの10年間のことなので、誰にもある。何かしら症状があっても、少しずつ変化するので気づきにくいし、認めたくない。

平松 じゃ、自分が閉経したかどうか、どうやってわかるのでしょう。

高尾 最終月経から12カ月たった段階ではじめて閉経していた、と判断します。血液検査で、E2というエストロゲン値と、エストロゲンを出せと促すFSHというホルモン値を測ることでわかりますが、医師は、患者さんの訴えをよく聞いて総合的に診断することが基本です。

平松 そもそも女性ホルモンって、何をしてくれているのか、知らない方もいらっしゃるのでは?

高尾 女性ホルモンというのは2つあって、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)。更年期に大きくかかわってくるのが、エストロゲンです。このエストロゲンのレセプター(受容体)が体のいたるところにあって、丈夫な骨や血管の弾力、肌の保湿を保つなど、あらゆる面で女性を守ってくれている存在なんです。

平松 更年期症状のほとんどは、エストロゲンの減少が原因――。

高尾 そう。

平松 初歩的な質問で恥ずかしいのですが、エストロゲンはどこから出ているのですか? 子宮ですか?

高尾 卵巣から出ています。

平松 あ、卵巣なんですね!

高尾 脳の視床下部からホルモンを出しなさいという指令が出て、卵巣から分泌されるのだけれど、平松さん、子宮と卵巣って、どのくらいの大きさかご存じですか?

平松 子宮はハンドボールくらい?

高尾 い~え。鶏の卵くらいの大きさなの。卵巣は、うずらの卵。

平松 臨月には子宮、あんなに大きくなるのに。

高尾 エストロゲンと妊娠出産のことを話すと、妊娠中ってエストロゲン値はすごく高いのですが、それは、胎盤から作られているんですね。でも出産後に胎盤も出てしまうので急激にエストロゲンを失う。更年期とよく似た状態になってしまうんです。

平松 イライラしたり、産後うつになったりが多いのは、そういう理由だったのですね。

高尾 授乳中しばらくは月経がこないですよね。その間、エストロゲンがほぼないので、骨密度は低下するし、髪は抜けるし、イライラもする。

平松 そのときに症状が出た方は、更年期症状が重くなるとか?

高尾 その傾向はありますね。月経前症候群(PMS)が重かったとか、自己犠牲型の性格の人も、更年期症状が出やすい。

【更年期障害のしくみ】指令を出しているのに、老化した卵巣がホルモン分泌をしない。その結果、自律神経などの不具合が起きる。

平松 治療する方法はありますか。

高尾 根本的な治療としては、少量の女性ホルモンを補充する方法(HRT)。エストロゲンだけでなく、子宮体がんのリスクを下げるため、プロゲステロンも使います。飲む、貼る、塗るなどの使い方もいろいろあるので、自分が取り入れやすい方法を選ぶこともできるんですよ。

平松 高価なのでは?

高尾 いえ。更年期障害の標準治療なので、保険適用されます。

平松 食べ物でエストロゲンを増やすことはできますか。

高尾 いえ、残念ながらできません。

「まあ。こんな小さい卵巣がエストロゲンを出していたのね。」平松さん 「何か健気だよね。知ると、大切にしたくなる。」高尾さん
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