女の人よ、「調理定年」を考え、もう料理はそこそこに。
撮影・森山祐子 イラストレーション・ヤマグチカヨ 文・長谷川未緒
夫の定年がタイミング。「調理定年」を考えてみて。
「男性の仕事には定年があるのに、女性はいつまでも衣食住を整える仕事から解放されません。掃除は3日くらいしなくても死にませんが、料理はそうもいかないので疲れながらもしている。女性も60代を迎えたら調理定年を考えてもいいのではないでしょうか」
そう語るのは、高齢者のリアルをユーモラスに綴った書籍も話題の評論家・樋口恵子さんだ。
調理定年とは、手作り主義をほどほどにし、外食やテイクアウト、スーパーのお惣菜などを上手に取り入れながら、必要な栄養を摂ること。
数年前の年賀状で、料理上手な友人たちが声を揃え「あんなに好きだった料理が、この歳になると億劫になる」と書いてきたことで、思い至ったという。
「雑誌に寄稿したところ、『みんな同じで、ホッとした』という声が届きました。料理が億劫になること自体、自分を責めてしまう女性が多いんですよね。でも仕事の定年が65歳だとすると、そこから平均寿命までまだ20年あります。妻の調理定年も、認めてもらっていいと思います」
散歩ついでに買い物を。テイクアウトを楽しんで。
現在、89歳の樋口さん自身は、週に2回ほどお手伝いの人にお願いして作ってもらい、週に1回は宅配のお弁当、週に2回は同居する娘が用意してくれる食事やテイクアウトのものをいただいているそう。家族がいると急に食生活を変化させるのは難しいこともあるが……。
「そういう場合は、たとえば作り置きを1品、あとの2品はスーパーのお惣菜といった食事から始めてみてはどうでしょう。
夫に『一緒に買い物に行きましょう』と誘ってみるのもいいですよね。運動になりますし、そう高くない値段で多種多様な中から自分の食を選ぶという行為は、ささやかだけれど選択と決定の場で、楽しめるはずです」
コロナ禍で増えたテイクアウトも、メニューから世の中の移り変わりがよくわかり、おすすめだ。
食後5分は、夫を寝かせてはいけません。
調理定年を取り入れ、買い物から夫を食事の用意に巻き込んだら、後片づけもお願いするといい、と樋口さん。
「日本栄養士会会長の中村丁次先生が、『夫を長生きさせたかったら、食後にお皿洗いをさせなさい』と。私のつれあいは、ごちそうさまの後、バタンキューで寝ていましたが、健康のためには食後すぐの胃袋は水平にしてはいけないそうです。
ひとりで孤独にやらせるのではなく、そばで雑用をこなしながら食事の後片づけをしてもらうと、夫婦で長生きできますよ。男性は女性より握力が強いのでお皿もきれいになりますしね」
何を食べるかよりどう食べるかが元気のもと。
年齢を重ねると、どうしても食が細くなる。そんなときこそ一緒に食事ができる外食フレンドを作っておくことを勧めたいという。
「栄養素が摂れているかどうか数値で見ることも必要ですが、幸福感につながる食べ方をしているかどうかは、それ以上に大切なのではないでしょうか。
70代は家に招いて食事を作り合うこともできますが、80代になるとそれも億劫です。
月に1、2回、お昼ごはんを食べるグループや交友関係を作っておき、食べる生活を楽しみましょう。
そうして人生100年、たとえ夫に先立たれても、自分は元気に生き残るつもりで、楽しく一生を全うできたらいいと思います」
『クロワッサン』1066号より
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