からだ

腸活で免疫力が上がる理由と、今すぐ始めるべき腸活アクション。

まだまだ油断できない日々が続く中、私たちのからだを守ってくれるのはひとりひとりが持っている免疫力。
その底上げに積極的な腸活が欠かせません。まずは腸内環境に直結する食の見直しを。
中でも腸の働きを手助けしてくれるのが、日本の食文化に根づいている「発酵食」。腸に関する最新の知見とともに、おいしく賢く摂る方法を更新しましょう。
  • 撮影・豊田 都(藤橋さん) イラストレーション・小池ふみ 文・小沢緑子

そもそも免疫とは何? どう働くの?

免疫細胞が集まるといわれる「腸」と「腸内細菌」の関係が徐々に明らかになっている。

「腸は食べものを消化吸収することで栄養素を体内に取り込んでくれますが、それと同等かそれ以上に重要な役割を持つのが腸の『選別機能』。
必要なものを取り込む一方、外からやってくるウイルスや病原菌などは取り込まずに排除をしてくれます。それが腸の免疫機能です」
と、腸内環境研究者の福田真嗣さん。

では腸内細菌は、なぜ腸内に棲むことが許されているのだろうか。

「腸内細菌は人間に悪さはせず、むしろ健康によい働きをしてくれるからです。しかも腸内細菌は『人間の免疫機能を高める予行演習』までしてくれることがわかっています」

免疫を高める予行演習とはどんな働き?

「もともと人間は体の中に免疫細胞を持っていますが、胎児のころは未発達。生まれた後に外にいるさまざまな菌にさらされることで免疫機能が発達していきます」と、福田さん。

中でも影響力があるのが腸内細菌だ。

「腸は体内にあるものの、消化管という一本の管で体外環境とつながった“内なる外の器官”。そのため外からウイルスや病原菌が入り込みやすいのですが、腸内細菌がいることで腸の免疫細胞は少しずつ“教育”されます」

すると実際に感染源となるウイルスや菌がやってきたときに腸の選別機能がただちに働き、免疫が敵を的確に攻撃できるようになる。

「腸内細菌は、人間にとっていわば“免疫を鍛えてくれるトレーナー”のような大事な存在。腸内細菌がお腹の中で頑張って教育してくれるおかげで免疫機能が発達し、未然に感染を防げるようになります」

腸内も腸内細菌も“多様”なほうがいい。

最新の研究では、腸内細菌が「多様」であることや、腸内で作られる成分が健康を保つうえで欠かせないことがわかってきた。

「腸内細菌が多様、ということは菌の数ではなく、菌種の数が多いこと。たくさんの種類の腸内細菌がいることでさまざまな成分を作り出すことができます。
人間と腸内細菌は共生関係にあり、人が食べたものを腸内細菌がエサとしますが、そのときに作り出す成分のうち『短鎖脂肪酸』は腸の免疫細胞に作用し、免疫機能を増強することがわかっています」

ただ腸内細菌はエサの選り好みが激しい。

「そのため、多種多様な菌がいるほうがいい成分が作られる確率が高くなります。腸内細菌の多様性を保つために大切な要素が、腸内細菌のエサとなる食べ物、すなわち人間が『普段何を食べているか』という食生活です」

次に、具体的なアクションを紹介する。

\腸活アクションを今すぐ始めよう!/

腸内の多様性を高めるにはまずは食が大事。どんなことに気をつければいいのだろう?

「育菌生活」を提案する、管理栄養士の藤橋ひとみさんに聞いた。

「腸内細菌は、人間が食べたものからしかエサが得られません。ペットと同じように、日頃から菌が喜ぶ食生活を気にかけていると、うまく飼いならせるようになりますよ」

生活習慣を見直すことも大切だ。

「腸はいわばお腹にある『発酵タンク』。タンクの中を活性化させるには体温や代謝を低下させないことも大事です」と、福田さん。

たとえば入浴時は湯船に浸かる、定期的に運動するなど、普段から体温や代謝を低下させない生活を心がけることも必要。食生活、生活習慣とも今すぐできることから始めよう。

[食生活]から見直しを!

【食物繊維】

食生活でまず見直したいのが食物繊維の摂り方。

「食物繊維はきのこ類、根菜類、こんにゃく、豆類などから摂りがちですが、それらはすべて不溶性食物繊維が多い食材。不溶性のものばかりに偏ると便のかさが増えすぎて腸内をスムーズに通れず、固くなり便秘になりやすい人もいますので注意を」(藤橋さん)

便を柔らかくする作用があるのが水溶性食物繊維。オクラ、なめこ、海藻類など“ぬるぬる、ねばねば”系の食品や果物に多い。

「食物繊維は不溶性、水溶性の両方を意識的に摂ることが大事です」

穀物から摂るのもいい方法。

「白米は玄米や雑穀米、パンは全粒粉やライ麦のものに替えると摂れる量が増え効率もよくなります」

【発酵食品】

「発酵食品も食物繊維と同様に腸内細菌のよいエサとなり、腸内細菌の多様性を高めてくれますが、それ以上の効果も期待できます」(福田さん)

理由は、(1)乳酸菌をはじめとするさまざまな菌(プロバイオティクス)、(2)腸内細菌がエサにしやすい成分(プレバイオティクス)、(3)発酵により乳酸菌などが作った有用な成分(ポストバイオティクス)の3つがすべて含まれるから。

この3つの良さをさらに生かせる食べ方が、発酵食品と食物繊維の多い食材の掛け合わせ。

「漬物や納豆などすでに食物繊維が多い発酵食品もありますが、たとえばヨーグルトならバナナ、グラノーラなどと組み合わせると腸活によりよいことがわかっています。具だくさんの味噌汁もおすすめ。具に、わかめ、豆腐、なめこなどを選べば、水溶性食物繊維が摂れるのも利点です」(藤橋さん)

●腸活の基礎知識

【プロバイオティクス】
人間の体や健康に有用な働きをしてくれる菌のこと。漬物、納豆、ヨーグルトなどの発酵食品に含まれる。

【プレバイオティクス】】
腸内に棲む菌のエサとなる素材や成分のこと。人間は消化吸収できないが菌のよいエサとなる食物繊維が代表的。

【ポストバイオティクス】
腸内細菌がプレバイオティクスを食べた後に作られる代謝物質。菌には不要物だが、人間には有用な働きをする。

[生活習慣]も重要です。

腸活に役立つ生活については、生活リズムを整えるのが基本。

「特に女性が気をつけたいのが便秘。一日1〜2回、大蠕動と呼ばれる腸の内容物を一掃する動きが起こりますが、これは朝起こることが多い。
便は夜寝ている間に作られますから睡眠時間は充分にとり、朝食もしっかり食べる。さらに腸の働きは副交感神経が優位なときに促進されるので、食後は慌てずトイレに行けるリラックスタイムの確保も大切です」(藤橋さん)

また、夜寝る前の入浴は副交感神経を優位にするため、良質な睡眠をとるために大いに役立つ。

ほかにも便が固くならないように水分不足には気をつけ、脂質は控え過ぎないように注意を。適度に体を動かすことも必要だ。

「排便時に使う腹筋やふんばるときに必要な脚やお尻あたりの筋肉の衰えも便秘に関係します。最近は若い世代でもお腹周りの筋肉が弱まって便秘になる人もいますから、簡単な腹筋運動などを取り入れ、日頃から姿勢を良くするように心がけてください」(藤橋さん)

●腸活に役立つ生活習慣

□ 規則正しい生活
昼間は活動的に、夜は副交感神経が優位になるようリラックスして過ごす。3食を決まった時間に摂ることも大切。

□ 水分補給
不足は便秘を招く。必要量をしっかり摂り、胃腸症状を改善する水を選ぶのも手。硬水は便を柔らかくする作用が。

□ 良い油の摂取
脂質が便を包み込むことで排便がスムーズに。極端に脂質はカットせず、良質なオメガ3の油を摂るのがおすすめ。

□ 睡眠、食後の休息
睡眠時間を確保する、食後に休憩する時間をとると副交感神経が優位となるので、腸がよく働き消化吸収が進む。

□ 入浴
湯船にゆっくり浸かると徐々に交感神経から副交感神経優位へ切り替わる。リラックス効果も入眠しやすくなる理由。

□ 規適度な運動
日頃から姿勢は良くし、簡単な腹筋運動や体幹が鍛えられるような運動を習慣にすることも便秘予防のために大切。

福田真嗣

福田真嗣 さん (ふくだ・しんじ)

メタジェン代表取締役社長CEO、 慶應義塾大学先端生命科学研究所 特任教授

腸内環境研究の第一人者。理化学研究所などを経て現職。2015年に腸内環境の分析、評価や研究、開発を行うメタジェン社を設立。

藤橋ひとみ

藤橋ひとみ さん (ふじはし・ひとみ)

管理栄養士

科学的根拠に基づく栄養学をベースにレシピを開発、セミナーなども開催。東京大学大学院で栄養疫学の研究も行う。著書に『おから美腸レシピ』。

『クロワッサン』1061号より

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