精神科医・井原裕さんの「睡眠健康法」。
文・浅羽 晃 イラストレーション・ハラアツシ 撮影・岩本慶三
ドクター井原健康法(4)湯船に浸かって体温を上げ、少し涼んでから就寝する。
布団に入ってもなかなか寝付けない。そんなときは入浴を工夫することで改善が期待できます。
「やるべきことはすべて終わらせておいて、一日の最後に入浴するのが効果的なテクニックです。人間の体は、体温が下り勾配のときに睡眠に入ります。そこで、湯船に浸かって深部体温を上げた後、風呂から出て少し涼み、心地よく湯冷めしたタイミングで寝ると、自然に眠れるのです」
そのとき、熱い湯船に短く浸かるよりは、ぬるめの湯船に長く浸かるようにしましょう。深部体温がしっかり上がります。
ドクター井原健康法(5)睡眠時間は、必ず7時間は取る。
井原さんの日常は23時就寝の6時起床。睡眠は7時間です。
「1日24時間のうち12時間を交感神経優位な戦闘モード、12時間を副交感神経優位な癒やしモードとして、癒やしモードの後半7時間を睡眠に当てるのが理想です。睡眠時間が短いと交感神経優位な状態が長くなり、体は傷んでいきます。心筋梗塞、脳血管障害になるリスクがいちばん低いのは睡眠時間7時間前後。短くなるほどリスクは高まります」
生命に関係する病気のリスクを抑えるためにも、睡眠時間を確保することは大事なのです。
【日本人の睡眠時間は世界一少ない!】
ドクター井原健康法(6)アルコールや睡眠導入剤に頼らない。
寝酒を習慣にしている人がいますが、改めるべきです。
「アルコールを取ると睡眠時間全体に占める深い眠りが減り、睡眠の質が悪くなります。睡眠の質が悪いと、心や体のメンテナンスが十分に行われません。起床後、気持ちが重い、だるいなどの症状が現れ、場合によっては、うつ病になることもあります」
ベンゾジアゼピン系をはじめとする睡眠導入剤も、同じ理由で睡眠の質を低下させます。
「アルコールほどは睡眠の質を低下させない薬もありますが、できる限り飲むべきではありません」
ドクター井原健康法(7)積極的にたんぱく質を取り入れる。
睡眠時間は生活習慣病にも関連しています。
「人間は、起きているときは空腹を促すホルモンが出て、眠っているときは空腹を抑えるホルモンが出ます。つまり、起きている時間が長いと食べ物の摂取過剰になりやすく、生活習慣病を招くリスクが高まるのです」
良質な睡眠には肥満予防効果があります。ただし、そうした睡眠のメリットを最大限に生かすためにも、食事には注意が必要です。
「人間は本来、狩猟採集生活で動物性たんぱく質を多く摂っていました。現代人は糖質の摂りすぎです。たんぱく質やミネラルを多く摂るようにしましょう」
肉には動物性たんぱく質とともに飽和脂肪酸が、魚にはオメガ3脂肪酸が多く含まれる。
大豆をはじめとする豆類は植物性たんぱく質が豊富な食材の代表。毎日食べよう。
ドクター井原健康法(8)眠れなくても気にしない。
睡眠のエキスパートである井原さんも、心配事でなかなか眠れないことがあるそうです。
「眠れない夜を過ごすこともありますが、3~4日目あたりで意識的に本来の自分の睡眠リズムに戻します。ポイントは、どれだけ寝不足でも、いつもと同じ時間に起きることです。人間の体は、目覚めてから17時間後には強い眠気が来るようにプログラムされています。眠れないことを思い悩み、睡眠のリズムを崩すと、症状が悪化するだけです」
眠れなくても気にせず、いつもと同じ生活を心がけましょう。
ドクター井原健康法(9)朝、スッキリしているのが質のいい睡眠。
睡眠の質は、ある程度の確度で自己診断できます。
「大事なのは、朝、気分よく起きることができるかどうかです。目覚めがスッキリしていて、やる気に満ちていれば、質のいい睡眠を取れた証拠です」
わかりやすいバロメーターはほかにもあります。
「平日も休日も同じ時間に目覚める人は、日常的に睡眠の質がいいと考えられます。一方、平日が6時に対して休日が9時というように、時間が大きくずれる人は、平日の睡眠が質・量ともに足りていないのでしょう」
『Dr.クロワッサン あなたも、すぐできる! 名医の健康法』(2019年9月28日発行)より。