からだ

専門家に聞いた、「スマホ疲れ」時代の漢方薬との賢いつきあい方。

家族や友人との連絡も、調べものも、買い物もスマホで、という人が少なくありません。そのとき脳はすごい勢いで情報処理をしています。すると肉体疲労よりも脳疲労のほうが大きくなります。情報過多の時代が生み出す不調に応えてくれる漢方薬選びの基準とは?
  • イラストレーション・宇和島太郎 文・馬場さおり

体質にも影響を与える脳を過剰に使う現代。

冷えや疲労感、ダイエット、不眠、イライラ……そんな誰もが一度は抱えやすい身近な悩み。その原因には、日々多くの情報に囲まれ、その処理に追われている現代人の生活が背景にあります。

電話やメール、ネット検索だけでなく、買い物からSNS、仕事の作業までスマホ一つで完了する今。文字や映像などの膨大な量の情報が、絶えず脳に流入し続けることで、情報処理が追いつかずに脳過労を起こしている人が少なくありません。

そんな脳と神経を使いすぎている現代人は交感神経が優位になりやすく、興奮しっぱなしの状態。しかも脳や神経の疲れは、肉体疲労と違い、入浴や睡眠、休養などでリカバリーするのは難しく、「頭はのぼせるのに手足が冷たい」、「空腹でもないのにどか食いしてしまう」など日常に不調としてあらわれてしまいます。

SNSやネット検索、テレビ…… 身の回りにある大量の情報に、 脳と神経は常に興奮して、疲れ気味。

血流や発汗、心拍や内臓機能といった働きに関わる自律神経は、交感神経と副交感神経からなります。脳や神経を使う機会が多く、ストレス過多の現代人は、交感神経が優位になり、興奮・疲れ気味。

【脳が興奮し続けると自律神経の働きが乱れてくる】

●副交感神経さん
・リラックスしているとき
・眠っているとき
・休息しているとき

●交感神経さん
・活動しているとき
・緊張しているとき
・ストレスがあるとき

不調の原因・環境が変われば、漢方薬の選び方も変わる。

【伝統的な体質の判定法】

【実証】
がっちり頑強な印象
体力がある
血色がよくツヤ肌
声が大きい
胃腸が強い

【虚証】
痩せていて虚弱な印象
体力がない
顔色が悪く、肌荒れ
声が小さい
胃腸が弱い

【現在は、見た目が体質を表しているとは限らない】

見た目と虚実の証が一致しやすかった昔と違い、今はスマホの普及や生活様式の変化から脳と神経を酷使する人が多く、見た目通りの証でないこともしばしば。

自分に合った漢方薬を選ぶための判定基準。

脳と神経を使いすぎることによって交感神経が興奮疲れを起こしていると、漢方の伝統的な選び方や使い方が当てはまらないことも少なくありません。

たとえば、漢方薬を選ぶときに欠かせない虚実の証。腕力がなく痩せて色白な印象の人は、伝統的な判定法で言えば、虚証と見られてしまいます。

しかし朝から晩までオフィスで頭脳労働に励んでいる現代人の場合、デスクワークで筋肉がつきにくかったり、日中は屋内にいるために色白だったりするもの。一見「体力がない」、「細い」、「色白」と虚証に見えても、虚証ゆえの体質ではない可能性が高いのです。

脳と神経を使って働いているわけですから、興奮状態にあります。これを実証であるとみることもできます。つまり、見た目や体質がそのまま証を表しているとは限らず、昔ながらの漢方薬の処方が現代人には適切ではないケースもあります。

そんな昔に比べて判断しにくくなった証ですが、漢方薬を活用するうえではとても重要な要素の一つ。証と合わない漢方薬を使用することは、その効果が期待できないだけでなく、健康を害してしまう恐れがあるからです。

実際に、『小柴胡湯』が肝臓の悪い人に対して処方されたケースでは、間質性肺炎という重大な副作用を発症した症例もありました。『小柴胡湯』は肝臓や肺を冷やす処方の漢方薬であり、冷たいものの摂取が多く内臓の冷えが強い現代人にとっては、肝臓や肺を不用意に冷やしてしまうことになるのです。

漢方薬は、使う人の仕事や生活環境、活用する場面や時期によって、良薬にも毒にもなり得るもの。だからこそ、より効果的に安心して生活に取り入れるためには不調や悩みに応じた漢方薬を選び、場面に合った使い方が大切です。

「体質に合わない」「効果を感じない」そんな人は、適した漢方薬を活用できていない可能性が高いので、一度自分に合っているかどうかを見直してみましょう。

井上和恵

お話を伺ったのは

井上和恵 さん (いのうえ・かずえ)

脳神経科学者、漢方薬剤師

「脳の研究」で国から科学研究費奨励金を受けストレスや痛みに関する研究を行う。漢方薬の薬理学的研究の後、独自の理論で、脳神経学的視点から漢方薬の処方をし、実績を上げる。

『Dr.クロワッサン 不調が消える、ふだん漢方』(2020年1月28日発行)より。

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