脳と神経を使いすぎることによって交感神経が興奮疲れを起こしていると、漢方の伝統的な選び方や使い方が当てはまらないことも少なくありません。
たとえば、漢方薬を選ぶときに欠かせない虚実の証。腕力がなく痩せて色白な印象の人は、伝統的な判定法で言えば、虚証と見られてしまいます。
しかし朝から晩までオフィスで頭脳労働に励んでいる現代人の場合、デスクワークで筋肉がつきにくかったり、日中は屋内にいるために色白だったりするもの。一見「体力がない」、「細い」、「色白」と虚証に見えても、虚証ゆえの体質ではない可能性が高いのです。
脳と神経を使って働いているわけですから、興奮状態にあります。これを実証であるとみることもできます。つまり、見た目や体質がそのまま証を表しているとは限らず、昔ながらの漢方薬の処方が現代人には適切ではないケースもあります。
そんな昔に比べて判断しにくくなった証ですが、漢方薬を活用するうえではとても重要な要素の一つ。証と合わない漢方薬を使用することは、その効果が期待できないだけでなく、健康を害してしまう恐れがあるからです。
実際に、『小柴胡湯』が肝臓の悪い人に対して処方されたケースでは、間質性肺炎という重大な副作用を発症した症例もありました。『小柴胡湯』は肝臓や肺を冷やす処方の漢方薬であり、冷たいものの摂取が多く内臓の冷えが強い現代人にとっては、肝臓や肺を不用意に冷やしてしまうことになるのです。
漢方薬は、使う人の仕事や生活環境、活用する場面や時期によって、良薬にも毒にもなり得るもの。だからこそ、より効果的に安心して生活に取り入れるためには不調や悩みに応じた漢方薬を選び、場面に合った使い方が大切です。
「体質に合わない」「効果を感じない」そんな人は、適した漢方薬を活用できていない可能性が高いので、一度自分に合っているかどうかを見直してみましょう。