夏の冷えとほてりの原因。「腸熱こもり症」を知っていますか?
撮影・山本ヤスノリ イラストレーション・黒猫まな子
いわゆる“冷え性”とは抵抗力が弱っていて全身くまなく冷えるという症状。これに対して、“夏の冷え”は逆に身体の中に熱が溜まることが原因で起こる場合があるという。
漢方医の頼建守さんは後者の冷えを「腸熱こもり症」と名付け、養生法の指導や治療にあたっている。
「腸熱こもり症は世間でいう冷え性とは区別しにくいのですが、明らかに違います。一番の特徴は、顔はほてりやすいのに、背中、二の腕、お尻、太ももの裏、手足の末端などに冷えの症状が現れることです」
そもそもの原因は読んで字のごとく、腸に熱がこもること。現代人、とくに女性に多く見られる症状だという。では、その仕組みとは?
頼さんが腸熱こもり症のたとえに使っているのが洗濯機。
「容量が5kgの洗濯機に8kgの洗濯物を入れて繰り返し使っていると、モーターの中に熱がこもって壊れてしまいます。これと同じように、現在のような飽食時代では食べ過ぎ、飲み過ぎで胃腸を休ませる暇がありません。なかでも小腸がオーバーワークとなり、必要以上の熱がこもってしまうのです」
小腸の役割は胃で消化された食物を伸び縮みしながら少しずつ運び込み、栄養分を取り込むこと。さらには免疫力や自律神経のバランス調節にも関わっている大事な臓器。ところが、過食、過飲、さらに間食の回数が多いと小腸が酷使され続けることに。
「腸熱がこもると、身体の水分がうまく利用できず、熱でどんどん蒸発してしまいます。こうして皮膚や目などが乾燥状態になり、水分が蒸気のように上に上がることで顔にほてりを感じます。この状態が続くと、気の巡りが末端に行き渡らず、背中、お尻、太もも裏などに冷えの症状が現れるのです」
さらに、熱がこもると体力が消耗するので、空腹感を感じやすくなる。そこで多くの人は間食で甘いものを口にしがちに。甘いものとは砂糖や炭水化物などの糖質。これらは手っ取り早くエネルギーになるからだ。
間食の回数が多くなればますます腸に熱がこもる。その熱を冷まそうとして冷たいものを口にする。するとさらに腸に熱がこもるという悪循環に。
「腸熱こもり症は便の状態で見極めることができます。小腸に熱があるということは大腸にも熱がこもっているということ。まず、便の中の水が蒸発して便が硬くなって便秘になります。すると、身体は腸から熱を逃がそうとして下痢の症状を起こします。このときの便の臭いが腸熱のあるなしを判断する目安です」
熱のこもった室内で食べ物が傷むように、腸熱がこもっていると便の腐敗が進む。このため、下痢をしたときには強烈な臭いがするという。実際、一般的な冷え性の人の便はとくに臭うことはないそう。便秘と下痢を繰り返し、下痢のときの便が臭いという場合は腸熱こもり症の可能性大。
頼さんが腸熱こもり症の患者にアンケートをとったところ、次のような傾向があったという。
「間食することが多く、夕食の時間が遅くて量が多い。毎日元気に働き、食欲があって冷たいものをよく飲む。腸熱こもり症の人には、こうした食生活の傾向があります。40〜50代で、昼間はバリバリ働いて、夜はお酒を飲みながらたくさん食事をとるという人は要注意です」