長年付き合ってきた腰痛の、意外な原因が明らかに。
撮影・青木和義 イラストレーション・山口正児 文・黒澤祐美
錦織 そのぶん、腿前の筋肉が落ちているということなんですね。
伊藤 腿前は日常生活の中でもよく使われる部位なので、歩くだけでも鍛えられるような気がしますよね。けれど、錦織さんのように以前運動をされていてそれなりに筋肉があった人が筋力を元に戻そうと思うと、歩くだけでは足りません。プラスアルファの負荷を与えなければ筋肉は増えないのです。今は何か運動はされていますか?
錦織 5000歩のウォーキングをしています。あと最近は、坂道を駆け上がったり、ウォーキングコース内のトラックを走るといったインターバルトレーニングのようなことも始めました。
伊藤 インターバルトレーニングは歩くのとは違い全身の筋肉が刺激されるので、筋肉を鍛えるという意味ではとても効果的です。どれぐらいの頻度で取り入れていますか?
錦織 インターバルの強度はそこまで高くないですが、ウォーキングとセットで、毎日しています。
伊藤 毎日ですか! うーん、週に2〜3回で充分だと思いますよ。筋肉というのは短期間で増えるものではなく、休みを入れて継続的に鍛えたほうが身に付くので。1週間に3回、時間も30分〜1時間ぐらいのほうが習慣化しやすいと思います。歩き方はどんな感じでしょうか?
錦織 こんな感じ、普通に。(と歩く)
伊藤 とくに問題はなさそうですが、行進をするように5センチだけ足を高く上げる意識を持つと、より腿の前側が鍛えられます。すり足だと股関節の動きが小さく、腿前の筋肉はほとんど使われないので。
錦織 ウォーキングだけじゃなく、本当は筋トレもしたほうがいいんですか?
伊藤 そうですね。ウォーキングは下半身の筋肉全体が鍛えられますが、一番鍛えたい太腿前の筋肉がつくまでに時間がかかります。一方筋トレは、ピンポイントで鍛えたい筋肉を狙えるため、効率よく筋肉を増やすことができるんです。駅やスーパーで上の階に行くときに、エスカレーターやエレベーターではなく階段を積極的に使うのもいいでしょう。
運動前は脳をリラックスさせて全身の筋肉を緩める。
伊藤 「アクセル型」だけではなく「エンジン型」の女性にも筋トレと合わせてぜひ行ってほしいのが、脳のリラックスです。脳と体は直結しているため、脳がリラックスすると自然と全身の筋肉が緩み、肩こり・腰痛の緩和にも繋がります。
錦織 どうすれば脳をリラックスさせることができるのでしょう?
伊藤 脳を緩めるには五感を刺激するといいとされていて、好きな匂いを嗅いだり、ゆっくりとお風呂に浸かったり、おいしいものを食べたりするのがおすすめです。マッサージもいいですね。
錦織 そういえば毎日米油を使ってクレンジングしながらマッサージをしているんですが、顔まわりだけでなく体じゅうが楽になる感覚があるんですよ。これはあまり関係ないでしょうか?
伊藤 いえ、関係あります。顔と脳は近いので、脳の血流を促すことに繋がります。それから顔の筋肉は、姿勢を保つために重力に対して働く“抗重力筋”と関連性があります。なので、顔をほぐすということが、実は全身の筋肉を緩めることにもなっているのです。
錦織 きちんと顔のお手入れをした日はとくにぐっすり眠れる気がするのは、全身が緩んでリラックスできていたからなんですね。
伊藤 ストレスなどが原因で体が緊張していると、いくら運動やストレッチを頑張っても効果が出ないことがあります。そんなときは脳をリラックスさせてから運動をするといいでしょう。
錦織 全身をストレッチしようと思うと膨大な時間がかかりますけど、先生がおっしゃるように脳をリラックスさせることで全身をカバーできるのなら、家事や仕事に忙しいクロワッサン読者にとってもありがたいですね。
伊藤 24時間明るい環境で仕事ができてしまう現代では、体をオンからオフに切り替えることが苦手な人が多くいます。そのため、一つでも「これをやればリラックスできる」というお守りみたいな習慣を、自分で作っておくといいかもしれません。顔マッサージや入浴のほかには、先ほど挙げたウォーキングもいいと思います。筋肉をつけるのではなくリラックスが目的の場合は、一定のリズムで歩くのがおすすめ。
錦織 一定のリズムですか?
伊藤 はい。目安は心拍数とほぼ同じ1分間で100ビートぐらい。ちょうど『アンパンマン』や『ドラえもん』の歌がそのぐらいのテンポになります。ゆっくりなペースは疲れにくいので、長い距離を歩くこともできますよ。
錦織 脳のリラックスが肩こり・腰痛に効くというのは新しい発見でした。休む+鍛えるをセットで毎日の習慣に取り入れてみようと思います。
錦織なつみ(にしきおり・なつみ)さん●素朴美容研究家。美容ジャーナリスト歴30年。国産の季節の素材を活かした素朴美容に辿り着き、HP「素朴美容の手帖」やブログ「素朴美容の透明感」を展開中。林野庁の森林資源活用委員。
伊藤和憲(いとう・がずのり)さん●明治国際医療大学教授。鍼灸学博士。全日本鍼灸学会理事。専門領域は筋骨格系の痛みに対する鍼灸治療で、特に筋肉の痛みを専門にしている。『よくわかる痛み・鎮痛の基本としくみ』など関連著書も多数。
『クロワッサン』1021号より