からだ

長年付き合ってきた腰痛の、意外な原因が明らかに。

痛いから動きたくない。で、動かないとますます症状が進む、肩こり・腰痛。その原因の元を探りながら、正しいケアを考える。
  • 撮影・青木和義 イラストレーション・山口正児 文・黒澤祐美
(左)伊藤和憲さん 明治国際医療大学教授(右)錦織なつみさん 素朴美容研究家

素朴美容研究家として活躍中の錦織なつみさんは、執筆作業のために長時間デスクで座り続けることが多く、もう何年も腰痛に悩まされているそう。明治国際医療大学教授である伊藤和憲さんに今の体の状態をチェックしてもらいながら、原因と改善方法を探ります。

伊藤 錦織さんは、ひどい腰痛に悩まされたことがあるそうですね?

錦織 はい。美容コラムの執筆を始めてからパソコン作業が増え、2002年頃、腰がほぼ直角に曲がった状態で起き上がれなくなるぎっくり腰をしまして……。以来、腰痛に悩んでいます。

伊藤 ずいぶん長いお付き合いですね。当時はどう治療されたんですか?

錦織 その時は指圧で揉みほぐしてもらってなんとか乗り越えたんですが、数年後に突然、右肩が左の腰に向かうように体がぎゅーっとねじれて、自分の意思で戻せなくなってしまったんです。以来、右太腿全体が硬く、左の肩も上がりにくいんです。

伊藤 肩こりも腰痛も、姿勢の乱れからくることが多いです。錦織さん、ちょっと壁を背に立ってもらえますか? 肩の力を抜いて、普段どおりのラクな姿勢をとってください。ああ、骨盤が後傾していますね。

錦織 後傾ですか!? 実は、ずっと反り腰だったんですが……。

伊藤 若い頃は運動されていましたか?

錦織 はい、中学時代は陸上部で、短距離と高跳びをしていました。

伊藤 短距離走も高跳びも股関節をしっかり曲げて跳ねるような動作がはいるので、お尻と太腿の前の筋肉が鍛えられます。当時は発達した腿前の筋肉が骨盤を前に引っ張り、反り腰になっていたんですね。でも今はその筋肉がだいぶ落ちてしまっている状態です。

まずは壁の前に立って姿勢をチェックする。

1.後頭部を壁につける。頭が壁から離れてしまう人は、姿勢の乱れが生じている。

2.両肩と肩甲骨を壁につける。猫背タイプの人は肩がつかないことが多い。

3.腰と壁の間は手のひら1.5枚分のスペースが理想。拳が入る場合は反りすぎ。

4.お尻が壁につかない、あるいはつけて上体が前に倒れる人は腹突き出しタイプ。

5.両足を揃えて踵を壁につける。つま先は正面。この上体で骨盤と肩甲骨を見る。

タイプ別による痛みの原因と姿勢の正しい整え方。

伊藤 私は不定愁訴のタイプを「アクセル型(頑張り屋さん型)」「エンジン型(基礎体力低下型)」「ガソリン型(生活習慣型)」の3タイプに分けています。陸上をやっていた頃の錦織さんはおそらく「アクセル型」で、前に行こう、前に行こうという気持ちが反り腰に繋がり、腰に負担をかけていたのだと思います。それが今は筋肉が落ち、つまりエネルギーを生む器官そのものが弱り始める「エンジン型」になっていると考えられます。仕事やプライベートで忙しい若い世代は「アクセル型」が多い傾向ですが、キャリアを重ねた大人の女性はこの「エンジン型」に移行する人も少なくありません。

錦織 太腿の筋肉が落ちている意識はなかったので意外でした。でも先生、右の太腿が硬く引っ張られている感じがするのは、どうしてでしょう?

伊藤 おそらく硬いのは、腿の前側の筋肉が足りていないことが原因だと思われます。

錦織 筋肉が少ないせいで、硬くなることがあるんですか?

伊藤 はい。錦織さんの場合、医学的に見ると全体の筋肉量は正常の範囲です。ただ、腿の前後の筋肉量には差があるようです。たとえば、腿裏の筋肉は10あるのに対し、腿前の筋肉が7しかなければ腿の前側が無理をする状態になりますよね。前後どちらかの筋肉が緩んで(低下して)いると、筋肉はバランスを取るために反対側が収縮して縮む傾向にあります。おそらく錦織さんは腿裏の筋肉のほうが強くて縮んでいて、前側の筋肉が緩んでいる。で、脳から“それ以上緩むな”と指令が来て硬くなっている状態ではないかと。抑制する力が働いている状態でいくらストレッチをしても、筋肉は柔らかくなりません。この場合はむしろ、縮もうとする腿の裏の筋肉を伸ばして、それに対抗する腿前の筋肉を増やすことで前後のバランスを10:10に整えるというのが正解です。

錦織 硬い=伸ばすことが正解とばかり思っていました。

伊藤 反り腰を直す場合はおっしゃるとおり、腿の前を緩めて後ろを鍛えることで骨盤を正しい位置に戻すことができます。ただ、筋肉量が逆転した今は骨盤が後傾しやすくなる。この現象が、四十肩や五十肩の症状を引き起こすこともあるんですよ。

錦織 骨盤の後傾が肩の痛みの原因に? 私の五十肩もそれが原因でしょうか。

伊藤 少なからず影響はあると思います。骨盤が後傾すると、背骨のS字カーブがなくなり、頭が前に飛び出すような姿勢になります。わかりやすく言うと、猫背の姿勢ですね。その状態のまま腕を高く上げようとすると、肩の筋肉が無理やり伸ばされて筋肉を壊すことになってしまうんです。そういった意味でも、腿前の筋肉を鍛えて骨盤を正しい位置に戻すことが大切になります。ここでもう一つテストをします。かかとを床につけたまま、しゃがんでもらってもいいですか?

(腰椎・下半身のテストで、ちょっとよろける錦織さん)

かかとが上がらないのは素晴らしい。でも尻持ちをつきそうになるのは、腿裏が縮んでいる証拠です。

あなたのタイプは? セルフチェックで姿勢を把握する。

正常
猫背
腹突き出し
反り腰

壁の前に立ち、壁に触れる部分を確認して姿勢を見る。背中が丸まり頭が前に出る人は「猫背」、骨盤が壁から離れている人は「腹突き出し」、腰と壁の隙間が広い人は「反り腰」。チェックしよう。

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