ジローは北米インディアンの過酷な儀式を体験し、南米では反政府ゲリラとともにボートで国境を越え、ヒマラヤの洞窟で聖者と出会う。これらもすべて、宮内さんが実際に経験したことだ。
「小説を書くときは想像力と、肌身で体験したことを合わせているんですね。体験をお腹にとどめたまま、10年20年待つわけですから、なかなかの難産です(笑)」
ジローの旅は単なる地図上の移動ではなく、「人間とはなにか」「自分とはなにか」と問い続けた、精神の高みを目指す旅だった。だから読む者は同じ問いを問わざるをえず、激しく心揺さぶられるのだ。
今作の舞台は沖縄。全学連のリーダーであった老医師、島で生まれたハーフの姉弟、沖縄の伝統的な女性シャーマン、PTSDに苦しむアメリカ兵など、生きづらさを抱えながら、それでも誰かを癒やしたいと願う人々が登場する。そのなかで翻弄されつつも、生きる道を模索するジロー。