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『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』川添 愛さん|本を読んで、会いたくなって。

わかりやすい寓話で知るAIと言語の今。

かわぞえ・あい●1973年、長崎県生まれ。専門は、言語学、自然言語処理。著書に、『白と黒のとびら-オートマトンと形式言語をめぐる冒険』、『精霊の箱-チューリングマシンをめぐる冒険(上・下)』(共に東京大学出版会)がある。

撮影・森山祐子

かわいらしい表紙に思わず手に取った本書。中身は、言語学の観点からみた人工知能の現状という最先端な内容だ。しかし、身構える必要はない。主人公は怠け者のイタチたち。楽をしたいがために、命令をなんでも聞くロボットを作ろうとするのが発端という、ほのぼのした寓話ふう。読みやすい!

「普通の解説書や、研究の現場で起こっていることをそのまま書いてもおもしろくないと思ったので。動物たちが試行錯誤する物語にして、深く掘り下げた解説を章ごとに添える構成にしました」

著者の川添愛さんは、もともと日本語を専門とする言語学者。私たちが母国語をなぜ話せるようになるのか分析する研究の後、自然言語処理というコンピューターで言語を扱う分野に移り、約10年。言葉を理解する機械を研究・開発する現場に携わってきた。

「言語学の目的は、言葉に関係ある現象を科学的に説明することですが、自然言語処理はコンピューターを使って言語を分析する先に、何か役に立つものを作ろうという意識があります。検索エンジンや、IBMのワトソンのように質問したら答えてくれるコンピューターなど、実生活に応用されています」

さて、イタチたちは、まずロボットに自分たちが話す言葉を正しく理解させようと考えた。そのため、言葉がわかる機械を開発したというほかの動物たちの村を次々と訪れるが、モグラ村では音声認識、カメレオン村では会話、アリ村では質問に正しく答える技術の抱える、さまざまな問題に突き当たる。

たとえば、聞き取った音声を文字にしてモニターに正しく表示できる機械は、意味を把握しているわけではない。相手の話した言葉のパターンや過去の会話を手がかりにして自然な会話をする機械は、内容を理解しているわけではない。質問文を検索に利用して正しい答えを見つける機械は、文献に書かれていない常識や日常的なことを問われると答えられない。これらを言葉がわかっていると言えるのか?

私たちが赤ちゃんの頃から自然と獲得してきた言葉を理解して会話する能力が、どれほど複雑で特別なものなのか、あらためて考えさせられてしまう。

「人工知能に対する見方にもかかわるんです。人間のやっていることをたいしたことないと思うなら、人工知能もすぐ人間並みになると認識するでしょう。でも、実はかなり高度なことを人間はやっている。開発はまだまだ発展途上です。この本が、人工知能に対して言語学の側から活発な議論が生まれるきっかけになればうれしいですね」

朝日出版社 1,700円

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