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『男であれず、女になれない』鈴木信平さん|本を読んで、会いたくなって。

私に会ってみたいと思ってもらえたら。

すずき・しんぺい●1978年、愛知県生まれ。立正大学社会福祉学部卒業。俳優養成所レッスン生、広告代理店、コールセンターなどを経て、現在はブックリスタ勤務の会社員。趣味は劇団「おぼんろ」のおっかけ。

撮影・千田彩子

「想像してみてください。あなたがあなたであるというアイデンティティは、あなたの人生から性別を除いても、変わらずそこにあるものでしょうか」

本書は、こんな問いかけから始まる。

鈴木信平さんは、男性として生まれたが、10代から20代のさまざまな体験から違和感を感じ、男性器を切除して男性であることをやめた。しかしホルモン摂取や豊胸、造膣などもせず、女性にもならない、という道を選んだ。本書は、なぜ性を持たないという結論に至ったのか、苦しみの道のりを丁寧に綴ったノンフィクションだ。

「この体験は自分にしか書けないと思いました。今までブログなどで書き溜めていたのですが、本格的に書こうと思ったのは、手術をして体を変えたときです。胸のうちを書いていちばん変わったのは、ちょっと気持ちが軽くなったということでしょうか」

姉と兄がいる末っ子。両親に大事にされて育ったが、中学の校則で「丸刈り」にされることに怯え、高校2年のとき、いじめられたわけではないのに、学校に行けなくなった。それはクラスが男子のみだったから。男子特有の空気の中で、男性としての自覚を求められ続ける毎日に疲れ果ててしまったのだという。

高校は中退し、独学で勉強を続けて大検を受けたあと、大学に入るために上京した。そこで思わぬことが起きる。同性の同級生に恋をしたのだ。勇気をふりしぼって打ち明けるも失恋。彼が彼女として選んだのは鈴木さんの女友だちだった……。

「男子だけの世界に拒絶反応を起こして高校から飛び出したにもかかわらず、男性を好きになってしまった。私はいったい男が嫌いなのか好きなのかわからず混乱しました。ここから自分の性別は何なのかを問い、社会と性と自分に対して真っ向勝負を挑む覚悟ができたのです」

同性愛、性同一性障害などセクシャルマイノリティのコミュニティをあちこちさまよったが、どこにも居場所を見つけることができなかった。そして誰にも告げずに男性器摘出の手術を受ける。

「 “男であれず、女になれない” 、というのがいちばんしっくりくると、やっと言えるようになりました。世の中にはこういう人もいることを知って、セクシャルマイノリティの幅を広げてほしいと思います」

自分に誠実に真摯に生きるとはどういうことか。セクシャリティがもたらす幸せと悲しみとは何か。改めて考えさせられる一冊だ。

小学館 1,200円

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