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『夜の谷を行く』桐野夏生|本を読んで、会いたくなって。

胸に迫る、女性兵士と言われた女のその後。

きりの・なつお●1951年、石川県生まれ。’98年『OUT』で日本推理作家協会賞、’99年『柔らかな頰』で直木賞、2003年『グロテスク』で泉鏡花文学賞、 ’11年『ナニカアル』で読売文学賞など多数の受賞作が。近著に『猿の見る夢』など。

撮影・森山祐子

1972年、日本中を震撼させた連合赤軍による、同志12名を凄惨なリンチのうえ死に至らしめた山岳ベース事件。本書はこの事実を下敷きに、山から脱走した女性を主人公として、39年後を描いたフィクション。服役後すでに老齢になり、人と深く関わることなく目立たないよう、小さなアパートにひっそりと一人暮らし。ところが、姪の結婚にあたりその犯歴が問題化するなど、忘れたい過去はあらゆる形で日常にゆさぶりをかけてくる。事実と想像が融合した説得力ある展開の裏には、丁寧な取材があるに違いない。

「いくら調べても、参加した女性たちの側の話が全然出てこない。幹部だった永田洋子のことばかりがクローズアップされて、リンチ事件は女性特有の嫉妬のせい、という愚かしい判決まで出ていました。5、6人はいた女性兵士と言われる女の人たちが今どうしているのか、そして、山岳ベースで本当になにが起きたのか、彼女たちの口から聞きたいと思いました」

7、8年に及ぶ取材を重ねた桐野夏生さん、現場にいた女性にはたどり着けなかったというが、

「弁護士さんの紹介で、ひとりだけ周囲にいた女性に会うことができました。当時、妊娠中で、山岳ベースに来ないかと永田洋子に誘われたそうですが、行かなかった。その女性から、『永田たちには、ベースで子どもたちを育てる計画があった』と聞いて、びっくりしました。資料にも証言にも出てこない埋もれた事実でしたから」

だから山岳ベースには、身重の女性も赤ん坊も看護師や保育士といった若い女性たちもいたと知る。

「その人に最初、 “女性兵士たちについてお聞きしたい” と言ったら、 “女性兵士という言い方にはすごく違和感がある。彼女たちは、兵士というより、ただの女の子です” とおっしゃる。その反応に驚いたのですが、そんな計画もあったのですね。その証言で、プロットを大幅に軌道修正しました」

連合赤軍というテーマは編集者からの提案だったが、当初は暗いイメージが強く、いまひとつ書く気になれなかった。ところが、2011年2月に永田洋子が獄死、1カ月後に東日本大震災、そして原発事故まで起こったとき、

「たくさんの人が一瞬にして亡くなったこの出来事をきっかけに、確実に日本が変わると思いました。その時、私の中の連合赤軍事件は完全な過去になった。以来、客観的に捉えられるようになったんです。背中を押された気がしました」

文藝春秋 1,500円

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