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『40歳の言いわけ』斉木香津さん|本を読んで、会いたくなって。

50代になって、私はラクになりました。

さいき・かづ●1964年、大分県生まれ。2008年、『千の花になって』で第9回小学館文庫小説賞を受賞。ベストセラーとなった『凍花』や『五十坂家の百年』といったミステリーのほか、激動の時代を生き抜いた女性の一代記『日本一の女』がある。

撮影・森山祐子

居酒屋でかつての同級生たちが来るのを待つ一人の男。しかし待てども待てども、“同窓会、出席します” と答えた彼らのたった一人もやって来ない。みんな一体どうしちゃったんだ……と思ううちに、それぞれの欠席の事情が明らかになる。オムニバス形式で、もう一話、もう一話、とストーリーに引き込まれていく。斉木香津さん、なぜ「40歳」を描いたのですか?

「30代はチャレンジの10年、それを経た40歳の頃は仕事も責任があるし子育ても真っ盛りで、いちばん大変な時期だと思うんです。悩みがない人なんて、おそらくいない。その時期の大変さ、がむしゃらさを書いたら面白いかな、と」

妻からDVを受ける夫のことやママ友同士の諍い、会社のお金を横領しようとする男など、どこにでもありそうで興味をそそられる問題の数々。斉木さんが見聞きした話をもとに、書いたという。

「私自身の体験が反映されているようなエピソードはありません(笑)が、会社員をしていた経験があるので、会社の部分などはリアリティを持って描けたかな」

そんな斉木さんの40歳はどんな様子だったのだろう。

「私、幼稚園の頃から本を書く仕事がしたいと思っていたんですね。大学卒業後、10年間は社会人をやってから作家になろうとしたのですが、いざ会社を辞めて書き始めたら、まあまったく書けなくて。ようやく書けてもどうしようもない内容で、私、終わったな……と思ったのが40歳のときでした」

つまり40歳は目の前真っ暗な状態だった、と。

「作家にはなれないのかもしれないと気付いて苦しかったですね」

その後ファンタジーノベルからスタートし、ミステリーなど幅広い作風で作品を生み出していくわけだが、今作のようなエンターテインメント性の強いものは初めて。

「重いミステリー作品を書いて煮詰まっていたとき、私自身が同窓会に出席して。その話を編集者にしたら、ミステリーはいったん置いておいて、同窓会をモチーフに書いてみては、と。そこからは早くて、短編をたくさん書く感覚であっという間に書き上げました」

年齢を重ねたことでラクになっていると、斉木さんは言う。

「出口が見えないながらも楽しかったのは30代。そして40代は大変さがある。でも50代になると諦めも出てくるからかラクになるんですよね。オバさんと呼ばれてももう、もがかない。笑って受け止める余裕が出てきました(笑)」

双葉社 1,400円
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