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『汝の名はスパイ、裏切り者、あるいは詐欺師』手嶋龍一さん|本を読んで、会いたくなって

優秀なスパイは磁力のような魅力がある。

てしま・りゅういち●1947年、北海道生まれ。NHKワシントン特派員時代から『たそがれゆく日米同盟』『外交敗戦』等の著作を発表。独立後は『スギハラ・サバイバル』など話題作を上梓。現在、慶應義塾大学大学院教授も務める。

 アイルランドで発見された偽ドル札が欧州、アメリカ、そして日本を席巻。国際的な諜報戦に突入する模様を記した『ウルトラ・ダラー』をはじめ「インテリジェンス小説」という新分野を開拓した手嶋龍一さん。最新作は現代史に名を残す稀代のスパイたちの情報収集術や生き様を、豊富なエピソードとともに描く。

「磁力のような魅力を持つ超一流のスパイには蜜に蟻が群がるように、秘密の情報が集まってくる。この本ではそんな彼らの“人間力”を書きました」

 ロシアのプーチンや中国の習近平ら世界のVIPの側近も登場するパナマ文書で暗躍するフィクサーたち。イギリスの諜報部員からベストセラー作家になったジョン・ル・カレと、彼の父親で詐欺師としてエジプトの王様とカジノで一夜限りの大勝負を挑むロニー・コーンウェル。今はイギリス国内のエクアドル大使館で幽閉生活を送りつつ、国家情報を告発するサイト「ウィキリークス」のジュリアン・アサンジなど登場人物は一癖も二癖もあるキャラクター。ノンフィクションだけに、「事実は小説よりも奇なり」と呼べるほどドラマティックに伝わってくる。

「この本でも取り上げた日本で戦前に活動した世紀のスパイ、ゾルゲはやはり特別な存在ですね。取材を重ねるなかで見えてきたのは彼に情報を提供したドイツの外交官、彼を愛した日本人の女性、そして彼を捕えた特高警察の人間までが彼を悪く言わないどころか、最後まで彼の言動を信じていた。スパイというと裏切るというイメージがありますが、優秀なスパイは誰も裏切らないし、どちらの顔も立てるんです。
そのうえで、濃密な付き合いを重ねるなかで、人間的な魅力をふりまきながら任務を遂行するんです」

 手嶋さんが、今回の著作を通じて警鐘を鳴らすのがインターネットを通じた情報についてだ。

「情報収集手段としてネットに頼ると真実が見えなくなるんです。なぜかといえば3つの落とし穴があるからです。ひとつは間違った情報も多いこと、そしてそれを誰もが共有して見ていること。さらに、その情報には人間、もっと言えば個人が介在していないこと。たとえば僕のことをウィキペディアで調べると、今も生年月日が間違っています。あえて直しませんけれど(笑)。良質で確実な情報は自分の目と足を使って集めたり、相手の懐に飛び込んで信頼を勝ち得ないと入ってきません」

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