毎日に伝統色を忍ばせる、和のメイク。
和のメイク。古来から受け継がれている美の技法も、身近にお目にかかることは少ないかもしれません。なんとなく、頭に思い浮かぶキーワードは、白塗り、紅、笹眉、隈取り…どんどん発想が奇抜になってきました笑。そんな和化粧を、私は日常の身支度に、ポイントで取り入れることがあります。意外にも、浮くことなく、いつものファッションに溶け込ませることができるんですよ。今回は、目元・口元を彩るそのアイデアをお伝えします。
和装花嫁&歌舞伎を参考に、アイメイク。
まずは、目元・アイメイク。私が和のメイクに初めて触れたのは、自分の結婚式、和装で神前式に臨んだ時です。水おしろいを刷毛で顔全体、首筋うなじまで伸ばしてベースをつくり、目尻からこめかみにかけ、桃色チークを丸ーく載せる。仕上げに、深紅の紅を唇に。アイラインは、切れ長の漆黒ラインをスーッと。白・赤・黒の、メリハリがはっきりと利いた粋を感じる化粧法でした。
これを、普段の洋装に合わせると、エッジが強すぎますよね。しかしながら「こめかみ桃色チーク」は、そのほんのり感が、さまざまなウェアに溶け込みやすいと感じています。メイク用品は、馴染みの西洋モノを。若々しさや瑞々しさをプラスしたいときに、いつもの頬チークを、おもいきりよく上部こめかみに、入れます。すると、いつもとは違う紅潮が、粋な気持ちを生み出す気がします。さらにもうひと味、冒険してみたい時は、下まぶたの目尻にほんのわずかに、リップペンシルで紅いラインを入れたりも。これは、歌舞伎の女形化粧にヒントを得ています。この一線で、何気に…しぐさも表情もたおやかになれます。
リップメイクを、日本の伝統色でデザイン
次に、口元・リップメイク。和の紅化粧をダイレクトに取り入れるのではなく、アレンジデザインしています。自分で「リップメイクをデザインする」というと、なんだか難しそうに聞こえますが、私は二段階発想で、DIYしています。
まず、第一段階は、美術鑑賞から始まりました。赤を駆使したマーク・ロスコの作品群。千葉県佐倉市のDIC川村記念美術館の「ロスコ・ルーム」を観て、感銘を受けたのです。「赤」という色が、いかようにも幅広く繊細で、表現に満ちていることに…。そして「この赤を自分の唇に纏いたい」と思いました。さっそく、ミュージアムショップで、作者であるマーク・ロスコの図録を購入。帰宅してから、じっくり眺めては、ロスコの色使いをお手本に、手帳に「リップメイクの設計図」を描きました。
それだけでは飽き足らず、第二段階として、それぞれの赤は「日本の伝統色と、どうリンクするか」という理解を深めました。スケッチの際に使う色鉛筆の「赤、ピンク、紫」では、色の認識に限界がある。捉えきれていない、もっと細やかな色の定義はないのか、と悶々としていた時に、銀座三越の和雑貨売場で「日本の伝統色」という本を見つけ、ページを開いた瞬間「これですわ!」と嬉しくなりました。だって「250色」もの色名が、解説付きで網羅されているのですもの。続けざまに、「葡萄えびぞめ」「蘇芳すおう」「紅鳶べにとび」「今様色いまよういろ」…と、マーク・ロスコ図録と見比べては、リップ設計図に色名の書込みを。いつのまにか、設計図は、伝統色の学習ドリルに笑。
少しずつ日本の伝統色の色合いと色名を覚えていくと、日常そこにある四季の花々/草木/空の色や光/広告のポスターなどが、繊細に表情豊かに、目に付くようにもなりました。
日本の伝統色を、自分の唇に載せる。
さぁ、設計したからには、施工せねば。毎朝の口紅支度に、例の設計図を活かします。使い親しんだルージュを片手に、引きひき、塗りぬり。ルージュは、色鉛筆よりも色の混ぜ合わせが、し易いことに感激したりして。唇というのは、パレットとしても優れていますね。自分の唇のコンディションに合わせて、「今日は『苺色』にグロスをポイントで重ねてgirlyデザインにしてみよう」などと、艶めきや潤いを変えてみたり、とっても愉しいです。
これから紅葉深まる秋の色。その微妙な移ろいを、目を凝らして認識し、メイクの参考にできたらいいなぁと切望します。その日のTPOに合ったテーマを見つけ、自分の顔をキャンパスにしつつ、日本の色を取り合わせていきたい。心身に、和の美と色を忍ばせて、毎日を愉しみたいものです。
DIC川村記念美術館「ロスコルーム」
http://kawamura-museum.dic.co.jp/collection/mark_rothko.html
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