木というものは、各々自然な手入れによって独特の木味に育つもの――池田三四郎(松本民芸家具創始者)
1977年創刊、40年以上の歴史がある雑誌『クロワッサン』のバックナンバーから、いまも心に響く「くらしの名言」をお届けする連載。今回は、民芸家具の先駆者がその素材の持つ魅力について語ります。
文・澁川祐子
木というものは、各々自然な手入れによって独特の木味に育つもの――池田三四郎(松本民芸家具創始者)
70年あまりの歴史がある松本民芸家具。その創始者、池田三四郎(1909 -1999)による連載から2度目の登場です(前回はこちら)。6回目となる連載では、<集成合板、化粧板作りの家具ばかり見ている人のために。>と題して木材について語っています。
額縁や小物入れなどによく使われていた、梅の木や桑の木。使えば使うほど美しくなる枸(けんぽなし)や、神聖な木とされる槐(えんじゅ)といった今では貴重になってしまったものから、古くから西洋家具に使われてきたウォールナットまで、さまざまな木々の魅力が綴られています。
そうした木々でつくられた家具は、使い込まれ、自然な手入れを重ねることで、<各々のもつ自然で独特の色合いに美しく育って、使うものの心を楽しませてくれる>といいます。
手入れの方法は、水でかたく絞った雑巾で拭くこと。お湯を使うのは、木の艶をなくしてしまうため厳禁。また化学雑巾でいくら拭いても木味は育たないと戒めています。
名言が語られてから40年以上。木材への関心がなければ<価値のあるいいものを折角見ながら、見落したり、見過してしまうことがあり、後になって残念に思ったりするもの>とも語っています。昨今の古材を再利用した家具の人気は、そうした言葉がようやく実感をともなって人々に理解されてきたことの証しなのかもしれません。
※肩書きは雑誌掲載時のものです。
澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。
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