いい介護を「あの人だからできる」で終わらせず、新しい文化に──磯野真穂さん 医療人類学から考える介護(1)
撮影・岸本修平 構成&文・殿井悠子
医療は今、病院の中だけで完結するものではなくなっている。日々の暮らしや、その人を取り巻く社会とも深く関わっている。そんな医療の世界を、少し引いたところから眺めてみると、何が見えてくるのだろう。
「慢性疾患や介護の問題も増えて、病院に行って病気を治せばおしまい、という社会ではなくなっています」
そう話すのは、人類学者の磯野真穂さん。専門の医療人類学とは、体と社会、政治経済、歴史、科学などとのつながりから、人と医療の関係を考える学問だ。
日本の医療や介護は、誰もが公平に受けられる「制度」の中にある。磯野さんはそこに、人と人との信頼関係も欠かせないという。
「制度の良さって、“非属人的”であることなんです。Aという場所で介護を受けても、Bという場所で受けても、基本的には同じサービスを受けられる。それが制度ですよね」
一方で、医療や介護はとても“属人的”なものでもある。
「このお医者さんだからお願いしたい、この介護士さんは信頼できる、ということがありますよね。自分や家族の体に触れる人には、どうしたって属人的な信頼が必要になります」
誰に対しても公平であるための制度と、「この人にお願いしたい」という一対一の信頼。その両方を成り立たせている例として磯野さんが挙げたのが、鹿児島県の介護施設『いろ葉』だ。「日本全国こうだったら、誰も心配せずに老いられるだろうな、と思うくらい」と、磯野さんは言う。その根っこにあるのは、「お年寄りの生活を守ろう」という考え方だ。
「一対一の、ものすごく属人的な介護をするんです。でも同時に、制度のことをすごく勉強している。守らなければいけないことはどこなのかを考えながら、制度をその人のためにどう使うかを考え続けています」
いい介護が生まれたとしても、「あの人だからできた」で終わってしまっては、なかなか社会に広がっていかない。介護現場では、さまざまな制約や人間関係に疲れ、決まりどおりに仕事をこなすしかなくなる人もいる。「厳しい状況の中でも、何とかそこを抜け出そうとしている人たちがいます。そういう人たちが、新しい文化をつくっていくのかなと思います。例外扱いされず、“こういう介護ができるんだ”と普遍化されていく。それが理想ですね」(続く)
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