酒徒のまんぷく中国まるかじり vol.7──食の桃源郷、雲南の茶農家での夏休み
イラストレーション・小野寺光子
夏季休暇。毎月のように中国各地を食べ歩いているが、長旅の機会は限られる。ならば遠くへ。白羽の矢を立てたのが、雲南省最南部、西双版納(シー・シュアン・バン・ナ)の勐海(モン・ハイ)だった。
この一帯は茶の原産地のひとつ。山には、高さ十数メートルに達する茶の古木も残る。友人のつてで、家族で茶農家に泊めてもらうことになった。
折しも雨季。雨が降りしきる日が続き、釣りも山登りも断念。農家にこもってだらだら過ごしたが、むしろ大正解だった。
目の前には茶畑、その向こうには雲南の山々。テラスで雨音を音楽に、日がな一日茶を飲む。軒先でもいだパッションフルーツや、茹でたてのもちとうもろこし、落花生が茶請け。体内時計の針が動きを緩めていく。
食事どきには、茶農家の心づくしの料理が並ぶ。茶畑を走り回って育った鶏をさばき、茹で鶏に。茹で汁はスープや稀飯(シー・ファン/薄いかゆ)になり、朝どれの卵、近所の池で捕れた淡水魚、味の濃い野菜、春節に仕込んだ猪干巴(ジュー・ガン・バー/豚の燻製ジャーキー)が食卓を埋める。鶏の血や牛の生肉、胆汁を使った冷菜まである。
なんというきらびやかさか。ここでしか出会えない味だ。うれしくなって、親戚が造った自烤酒(ズー・カオ・ジウ/とうもろこしの蒸留酒)をあおり、茶農家の一族と杯を重ねた。
西双版納の料理は、まず辛い。生唐辛子、干し唐辛子、発酵唐辛子を多層的に使う。「辛さがなければ、料理の魂が失われる」とは農家の言葉。さらに鮮烈なのが、あふれんばかりの香りだ。香菜(シャン・ツァイ)、ミント、大芫荽(ダー・イェン・シー/香菜に似た香草)、ドクダミの地下茎などをふんだんに使い、酸味はタイライムなどの柑橘果汁でつける。
どこか東南アジアを思わせるのも当然。この地はミャンマーとラオスに接し、料理も地続きなのだ。この食に魅せられ、西双版納は今回で四度目。やはりここは、食の桃源郷だった。
今月ご紹介するのは、ミントと卵のスープ。ミントの量とレシピの簡素さに驚くかもしれないが、これでいい。たっぷりの香りを味わう、雲南らしい一杯だ。
薄荷鶏蛋湯
bòhe jīdàn tāng(ミントと卵のスープ)
ミント爽やか卵ふんわり滋味じわり。
【材料】
卵…3個
ミント…100g
ラード…大さじ1
塩…小さじ1
熱湯…800ml
【作り方】
ミントは硬い茎を除く。ボウルに卵を割りほぐし、塩少々(分量外)を加えてよく混ぜる。中華鍋を強火で熱してラードをなじませ、卵液を流し入れる。焦げ目をつけないよう大きく混ぜながら、ふんわりと炒める。卵が固まったらヘラで食べやすい大きさに崩し、熱湯を注いで塩を加える。煮立った状態で2~3分煮たら、ミントを加えてひと混ぜし、しんなりしたらすぐに火を止める。ミントは煮込むと苦味が出るので、さっと火を通すのがコツ。
『クロワッサン』1175号より
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