『だれか、わたしを助けて』エリカ・クラウス 著 古屋美登里 訳──葛藤を抱く人々の切実さが迫る短篇集
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
一篇一篇こちらを深く斬りつけてくるような短篇集。登場人物たちの痛みが、切実さが、やるせなさが突き付けられてくる感覚だ。
表題作は、10歳の娘と訪れたコンビニエンス・ストアで、男3人組の強盗に出くわした「わたし」が主人公。強盗たちは発砲して脅し、客の金を集め、去り際に「わたし」に「立て」と言う。逃げ切るまでの人質にする気らしい。娘は泣き出し、「わたし」は神に向かって「助けて」と言う。その時、立ち上がった人がいた――。
主人公の年齢や立場も、舞台となる場所や時代もばらばらな十二篇。そのうちの一作「立っている男」は、東京は狛江のラーメン店が主な舞台で、メモをとらずに10人以上の細かい注文をおぼえる店員と、その記憶力に感嘆する日本在住半年となる客の話だ。巻頭にある「日本の読者のみなさまへ」でも言及されているが、著者は日本で暮らした経験があるという。
どれも登場人物が葛藤を抱く内容。その濃度はそれぞれで、自分も知っている痛みもあれば、決して味わいたくない痛みもある。短いページ数のなかで、奥行きと余韻のあるドラマを生み出す構成と語り口が絶妙。もちろん、翻訳も素晴らしい。
『クロワッサン』1174号より
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