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作家・朝井まかてさんの着物の時間──着物は「好きなもの」をベースに、年齢に見合った着こなしをしたい

今回の「着物の時間」は、作家・朝井まかてさん。大阪府出身。市井の人々の生き様を鮮やかに描き出す歴史・時代小説が人気。2027年1月に少女雑誌を支えに戦前~戦後の大阪を生きる少年の物語『少女時代』を新潮社より刊行予定。

撮影・青木和義 ヘア&メイク・桂木紗都美 着付け・小田桐はるみ 文・大澤はつ江 撮影協力・HAMACHO HOTEL

ヴェネチアの風景を刺繡した袋帯に水色の塩沢紬を合わせ、爽やかさを出しました

朝井まかて(あさい・まかて)さん 大阪府出身。市井の人々の生き様を鮮やかに描き出す歴史・時代小説が人気。2014年『恋歌(れんか)』で直木賞を受賞。同年『阿蘭陀西鶴(おらんださいかく)』で織田作之助賞。2016年『眩(くらら)』中山義秀文学賞、2021年『類(るい)』芸術選奨文部科学大臣賞、柴田錬三郎賞、2026年『どん蔵』吉川英治文学賞など数々の賞を受賞。2027年1月に少女雑誌を支えに戦前~戦後の大阪を生きる少年の物語『少女時代』を新潮社より刊行予定
朝井まかて(あさい・まかて)さん 大阪府出身。市井の人々の生き様を鮮やかに描き出す歴史・時代小説が人気。2014年『恋歌(れんか)』で直木賞を受賞。同年『阿蘭陀西鶴(おらんださいかく)』で織田作之助賞。2016年『眩(くらら)』中山義秀文学賞、2021年『類(るい)』芸術選奨文部科学大臣賞、柴田錬三郎賞、2026年『どん蔵』吉川英治文学賞など数々の賞を受賞。2027年1月に少女雑誌を支えに戦前~戦後の大阪を生きる少年の物語『少女時代』を新潮社より刊行予定

運河を行きかう無数のゴンドラ。それらのなかには楽しげに語らう人々の姿も見える。岸辺には色とりどりの家が立ち並び、街のざわめきが聞こえてくるような帯だ。

「ヴェネチアの風景を刺繡したものなんです。この帯を締めていると『えっ! こんな帯、初めて見た』『この橋はリアルト橋!?』とか、しばらくは帯の話で盛り上がります。そこから会話が弾むことが多く、糸口を作ってくれる。いわば“話題提供帯”。ほとんどの人はヴェネチアと認めてくれますが、まれに大阪人は“中之島だわ”と。まあそれもそれで盛り上がる要素にはなりますが(笑)」

京都の骨董市で見つけた象牙の根付を帯留めに仕立てた。「江戸期のものらしいです。のほほんとしたポルトガル人のおじさんに魅了されました」
京都の骨董市で見つけた象牙の根付を帯留めに仕立てた。「江戸期のものらしいです。のほほんとしたポルトガル人のおじさんに魅了されました」

朝井まかてさんがこの帯と出合ったのは10年ほど前のこと。懇意にしている百貨店の呉服部担当者から「珍しい帯があるんですが、見ませんか?」と連絡が入った。

「好みを熟知していて、おもしろい柄や色の着物などを見つけると知らせてくれるんです。職人さんの手仕事が感じられるものが好きで、刺繡は好きなもののひとつ。ですから、この緻密で色使いがかわいい刺繡帯を見た瞬間に、締めてみたい!と思い。ひとめぼれです」

今回その帯に合わせたのは、サラリとした肌触りが心地よい水色の塩沢紬。運河からアドリア海へと繋がるような取り合わせだ。

「水の都をイメージしつつ、帯に合う着物として誂えました。決め手は帯を引き立ててくれる爽やかな色。濃い茶の帯締めで、全体をキリッとさせました。着物の醍醐味はなんといっても組み合わせの妙。どの帯とどの着物を組み合わせるか、帯締めや帯揚げは何色?いろいろと考えている時間がすごく楽しい」

「2014年に『恋歌』で直木賞を受賞した際に、夫の友人夫妻から送られた檜扇(ひおうぎ)。木の部分がいい具合の色になって。宝物のひとつです」
「2014年に『恋歌』で直木賞を受賞した際に、夫の友人夫妻から送られた檜扇(ひおうぎ)。木の部分がいい具合の色になって。宝物のひとつです」

新たに着物や帯を誂えるときの基準となるのは、好きかどうかだけ、という朝井さん。

「パッと見て“好き”と思うものを選んでいます。だからあれこれと悩まない。最初に好みでないものを排除して、一番好きなものを選ぶ。あと帯と着物を一緒に選ばないことが多いです。帯は帯、着物は着物として、単独で選びます。そのほうが組み合わせの幅が広がるような気がするんです」

見ているだけでワクワクする刺繡帯。運河部分に銀糸が織り込まれ水面がきらきらと輝く
見ているだけでワクワクする刺繡帯。運河部分に銀糸が織り込まれ水面がきらきらと輝く

そして柄よりは色に重点を置くことが多い。

「色で遊ぶというか、合わなさそうな色、たとえば緑と赤、黄色と青などをあえて帯揚げや帯締めにもってきて、インパクトのある装いにすると、おもしろみが生まれる。そこが楽しいんです。もちろん着物とのバランスが第一ですけれど」

朝井さんが着物に親しむようになったのはここ数年のことだ。

「文学賞の授賞式やそれに伴うイベントや会食などに、以前はドレスと着物が半々だったのですが、年齢を重ねたら着物のほうがしっくりくるように。体形カバーの効果も期待できる(笑)。アンティーク着物や大正ロマン的なものも好きですが、今の私が華やかな色や大胆な柄の着物を着ると、なんだか落ち着かなくて……。だから年齢に見合った装いをしたい。私にとって着物はくつろぎ感のある非日常。楽しく装って、いつも“ごきげんさん”の気分でいたいんです」

『クロワッサン』1174号より

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