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作家・澤田瞳子さんの着物の時間──着物の魅力は平面の中に季節があり、温度や匂いまでもが感じ取れるところ

今回の「着物の時間」は、作家・澤田瞳子さん。京都出身。同志社大学大学院博士前期過程修了。奈良仏教史を専門に研究したのち、2010年の『孤鷹の天』で小説家デビュー。2013年『満つる月の如し 仏師・定朝』で新田次郎文学賞、2016年『若冲』で親鸞賞、2020年『駆け入りの寺』で舟橋聖一文学賞、2021年『星落ちて、なお』で直木賞を受賞。近著に『京都の歩き方 歴史小説家50の視点』(新潮選書)、『金波 銀波』(中央公論新社)など多数。

撮影・青木和義 ヘア&メイク・桂木沙都美 着付け・小田桐はるみ 文・大澤はつ江 撮影協力・ACホテル・バイ・マリオット東京銀座

思いがこもった『結び糸』の着物。色、柄ともに大叔母が選んでくれました

澤田瞳子(さわだ・とうこ)さん 作家。京都出身。同志社大学大学院博士前期過程修了。奈良仏教史を専門に研究したのち、2010年の『孤鷹の天』で小説家デビュー。2013年『満つる月の如し 仏師・定朝』で新田次郎文学賞、2016年『若冲』で親鸞賞、2020年『駆け入りの寺』で舟橋聖一文学賞、2021年『星落ちて、なお』で直木賞を受賞。近著に『京都の歩き方 歴史小説家50の視点』(新潮選書)、『金波 銀波』(中央公論新社)など多数
澤田瞳子(さわだ・とうこ)さん 作家。京都出身。同志社大学大学院博士前期過程修了。奈良仏教史を専門に研究したのち、2010年の『孤鷹の天』で小説家デビュー。2013年『満つる月の如し 仏師・定朝』で新田次郎文学賞、2016年『若冲』で親鸞賞、2020年『駆け入りの寺』で舟橋聖一文学賞、2021年『星落ちて、なお』で直木賞を受賞。近著に『京都の歩き方 歴史小説家50の視点』(新潮選書)、『金波 銀波』(中央公論新社)など多数

古(いにしえ)より京都は着物をはじめとする日本の伝統文化を牽引する街。京都生まれで京都育ちの作家・澤田瞳子さんも子どものころから着物には親しんできた。

「七五三や成人式など、節目の行事は着物でしたね。それらをすべて仕立ててくれたのは和裁士をしていた大叔母です。母や伯母も若いころから大叔母のもとで和裁を習っていましたから、着物には造詣が深く着物好き。私も母の実家(愛知県知多半島)に遊びに行くたびに、大叔母に手ほどきを受けていたのですが、私の場合は『ここを縫いなさい』と言われた箇所をただ縫うだけ。和裁を習うというより、むしろ彼女の話相手のような存在でした。大叔母の話はおもしろくて、それを聞くことが楽しかった」

大正8年生まれの大叔母の、戦争を挟んで「針一本」で生計を立ててきた話は、澤田さんにとって人生訓にもなっている。

そんな澤田さんが今回着用した着物は、大叔母が色、柄を選び、仕立ててくれた鮫小紋。

「私が20代後半のときに仕立ててもらいました。実はこの鮫小紋、『結び糸』なんです。だから、柔らか物なのに、ところどころに糸繋ぎのネップがあり、紬のような風合いを醸し出していて趣があるんです」

「結び糸」とは尾張・三河地方に伝わる昔からの風習で、機(はた)織りの際に出る端糸(はしいと)と呼ばれる短い糸を集め、それを結び繋いで一本の糸にし「綛(かし)」という束の状態にしたうえで機に掛けて織られた反物のこと。

「母親たちが娘や孫の幸せを願いながら糸を繋ぎ、反物を織る。気の遠くなるような作業で出来上がった『結び糸』の反物は嫁入り道具のひとつだったとか。とある親類が『結び糸』で2反の反物を作り、そのうちの1反を大叔母に下さった。大叔母はその思いがこもった1反を自分の兄の一番下の孫である私に送ってくれたんです」

白生地の状態で大切にされていた反物を、大叔母が着物に仕立ててくれた。

「背中に一つ紋を入れてくれて『どんなところでも着ていけるようにしたから』と。この着物はトークイベントや大学のパーティーなどで大活躍しています」

鮫小紋に合わせた帯は、金彩(きんさい)友禅の第一人者・和田光正(わだ・みつまさ)さんの金彩袋帯。

金彩と呼ばれる箔を糸に貼り付け、織り上げた格のある袋帯。上品な輝きが着物を引き立てる
金彩と呼ばれる箔を糸に貼り付け、織り上げた格のある袋帯。上品な輝きが着物を引き立てる

「母と和田さんが古くからの友人で、子どものころからかわいがっていただきました。和田さんの金彩は金銀が上品で奥ゆかしい輝きを放ちます。京友禅というと、“はんなり”といった言葉が浮かびますが、シャープでキリッとした着物も多いんですよ」

事実、澤田さんが直木賞を受賞した際の授賞式の着物と帯も和田さんの作だ。紺地の絽に鶴が連なる柄で、シャープでモダンな雰囲気を醸し出す。

「鶴が飛び立つ様に、今後の飛翔を示唆してくれたのかもしれません」

年上の知人から譲り受けた塩瀬の名古屋帯。裏面が墨流しで、両面使いができる。「リバーシブルとは知らなかった。蝶の中も墨流しでお洒落」
年上の知人から譲り受けた塩瀬の名古屋帯。裏面が墨流しで、両面使いができる。「リバーシブルとは知らなかった。蝶の中も墨流しでお洒落」

「謡(うたい)」「大鼓(おおつづみ)」「能管」と和の習い事も多く、着付けは自分でさっと、と思いきや。

「これらは“袴”をつけるので半幅帯。だから自分で結べます。一方、着物となると帯が難関なので、プロにお任せしています。着付けのこだわりは特にはありませんが、白衿、白足袋が好きです。着物の美しさは衿元のすっきり感や、足元の白だと思うんです。着るからにはキリッと装いたい。着物っていろいろな景色を見せてくれるところが魅力ですね。平面の中に四季があり、柄ひとつで温度や匂いまでも感じることができる。こんな伝統衣装はほかに類を見ない。だからこそ大切にし、継承していくことが重要なんだと思います」

『クロワッサン』1164号より

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