『王国』著者 湊かなえさんインタビュー ──「ミステリは善人だけでも起こり得る」
撮影・北尾 渉 文・一寸木芳枝
「自分が描く登場人物を好きになってもらいたい。そう思ったのは、この作品が初めてです」
海と小さな港町を舞台に、男性9人の友情と再生をテーマにしたミステリである本作品。これまで母と娘、先生と生徒など、一対一の関係を濃密に描いてきた湊かなえさんにとって、初めてとなる群像劇だ。
「9人という設定は、連載媒体が『anan』ということで、読者が“推し”を当てはめながら読めたら面白いんじゃないか、そんな発想からでした」
物語は各人の視点で章ごとにリレー形式で進むが、読み手に「自分なりのキャスティングを楽しんでほしい」という思いから、彼らのビジュアルに関する描写は極力排除されている。
「背格好や髪型、服装などを一切描かず、この作品の中で“推し”を見つけてもらえたなら、それは小説として人間をちゃんと描けたということなのかもしれません。とはいえ、心理ミステリとして、各人物の視点から語る“真実”に説得力を持たせることは絶対に必要で。1番手、2番手、3番手みたいなのを作らず、全員をフラットに描くことは、それはもう難しい作業でした。もし、登場人物の人気投票があったとして、そこで最下位になった子がいたとしたら、本当にごめんなさい、という気持ちです。君の魅力を伝えきれなかった私の描き方が悪かったんです、って(笑)」
本作品はミステリながらも、“圧倒的な悪”が登場しないのも特徴だ。
日常でも起こり得る“ボタンの掛け違え”による悲劇
「悪人が1人いれば、その人が成敗されれば“めでたし、めでたし”です。でも、実際の世の中では悪人が存在しない中で起こる悲しい出来事って、たくさんあると思うんです。みんながよかれと思ってやったことが、必ずしもよい方向に向かうとは限らない。人数が増えれば増えるほど、ボタンの掛け違いは多くなり、わからないこと、すれ違いは生まれてしまう。海や山など自然が舞台であれば、なおさらですよね。今作では、誰にでも起こり得るそういったことを描きたかったんです」
読み始めは誰が嘘をついているのか、誰に責任があるのか。疑心暗鬼でページをめくる。だが、章を進めるにつれ、9人全員が悪人ではないことが逆に苦しくもなる。登場人物のひとり、浜崎元樹のこんな言葉が印象的だ。
〈絆なんて、たとえ家族であっても目視で確認できるものではない。特殊なメガネをかければ糸やロープ状のものが見え、現状の大きさや長さ、強度がわかれば、すれ違いや誤解を防げるのではないだろうか〉
物語の結末については、ここでは触れないが、最終章を読み終えた後に包まれるのは、きっと不思議と爽やかで前向きな気持ちだ。
「最終章を書けたことで、彼らが誰かに勇気や希望を与える存在になれたのかもしれないな、と私自身もとても気に入っています」
『クロワッサン』1172号より
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