『神の代役 HBD調査鑑別室』乾 ルカ 著──調査鑑別室が調べるのは死に至る絶望の理由
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
調査鑑別室の面々が、不審な死の死因を探る連作ミステリ。これがちょっと変わっている。
ZPウイルスの抗体を持つ者が、強い悲しみや絶望を抱くと死に至ることが判明した社会。該当するケースは「Heart‒Breaking Death」、通称「HBD」と呼ばれている。相手が抗体保持者であれば絶望させることで殺人が可能であり、そのため政府は法整備を進めている。その委託を受けて北海道の医療研究センター内に設立されたのが、HBD調査鑑別室だ。死の引き金となった要因を調べ、犯罪性があるかを検討するのが役割。ここに新卒で配属になった一ノ瀬美羽が、同僚たちとさまざまなケースに向き合う。
オタク仲間が集まる居酒屋のオフ会で突如亡くなった女性、ショッピングモールのベンチソファで突然死した男性、いじめを受けていた少年が亡くなり、母親の依頼で始まった調査……。
死者の本心は誰にも分からない。何に絶望するかは人それぞれ。だからこそ、美羽たちは誠実に死者に寄り添っていく。やがて思わぬ人生模様や人間心理が浮かび上がってくる。ミステリとしても、お仕事小説としても、読みごたえのある一冊。
『クロワッサン』1172号より
広告