『猫、そして14の不思議で恐るべき残酷な物語』ベルナール・ミニエ 著 青木智美 訳──実社会への皮肉も交えた本当に恐ろしい作品集
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
この表紙を見たら買っちゃいますよね、猫好きなら。可愛い~、なんて思っちゃいますよね。でも、書名通り、まったくもって愛らしい作品集ではありません。
書名にもある「猫」という短篇は、書簡形式の短篇。手紙の書き手は戦禍のロンドンから港町の別荘へ逃れた一人の女性。到着早々、彼女は管理人に「猫に餌をやってはいけない」と警告されるが、街で痩せこけた一匹の猫を見かけ、魚をやる。すると彼女の目の前に一匹、また一匹と猫が現れ……。猫好きにしたら「えー可愛いじゃん?」と思わせる出だしなのだが、そこからじわじわと悪夢的展開に。理性を蝕まれていく人物の手紙という点でホフマンの「砂男」を彷彿させるが、結末はまったく異なり、これはこれで愕然とさせる。
巻頭の「死の体験ツアー」ではダーク・ツーリズムをモチーフに、チョルノービリを訪れ、さらには南米の軍事政権下で残虐の限りを尽くした人物に会いにいく男女4人の旅の顛末を描き、近未来が舞台の「大いなる旅立ち」では実在の政治家の名前を皮肉な形で登場させるなど、実社会に対する批判性も。現実と地続きなのだと思わせるからこそ恐怖も倍増。いや、本当に怖いです。
『クロワッサン』1169号より
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