推し活・歯のケア・よく眠る…! 2人の医師に聞く、脳のために今すぐできること11。
イラストレーション・山口正児 文・長谷川未緒
脳を健やかにする5大要素は、「歩く」「眠る」「歯のケア」「魚のアブラ」「腸内環境」!
歩く
●外を歩いて脳に刺激を。一日4000歩以上を目標に。
ウォーキングが心身の健康に役立つことは誰もが知るところだが、脳の老化を防ぐためにも有効だ。
「外を歩くと五感が刺激され、脳によい影響があります。階段の上り下りもおすすめ。平衡感覚が磨かれ、筋肉を鍛えられるからです。自分の足で歩けることは、脳の認知機能を維持するために重要です」(白澤卓二さん)
アメリカの研究では一日8000歩までは歩くほど寿命が延びる傾向だそう。
「とはいえ8000歩は大変。世界的に有名なアルツハイマー病の研究誌によると、一日の平均歩数が4000歩以上のグループはそれ以下に比べ、記憶を司る脳の海馬付近の体積が大きいという結果が出ています。まずは一日4000歩を目標に」(伊賀瀬道也さん)
眠る
●睡眠中に脳のゴミを掃除。熟睡して、朝日を浴びて。
誰の脳にも存在するタンパク質・アミロイドβは脳のゴミともいわれ、分解・排泄されず脳に溜まると、アルツハイマー型認知症を発症させる一因に。
「寝ている間に脳の常在免疫細胞・ミクログリアがアミロイドβを取り込み、血流によって排泄します。最適な睡眠時間は人それぞれですが、目覚まし時計を使わず自然に目覚めたときが、脳が充分きれいになった状態だと考えられます」(白澤さん)
よく眠れない人は、こんな対策を。
「目覚めたら太陽光を浴びましょう。起床後14〜15時間後に脳の松果体(しょうかたい)がメラトニンを分泌し、眠りに導いてくれます。食事は寝る3時間前までに終え、夜はスマホを見ないなど、交感神経を刺激しない生活も大切」(伊賀瀬さん)
歯のケア
●歯周病菌は認知症のきっかけに。フロス使用は必須。
40歳以上の約半数がかかっているといわれる歯周病。歯を失うだけでなく、歯周病関連菌が血管内に入り、炎症を引き起こすことが知られている。
「血管が炎症を起こすと、動脈硬化の悪化や、糖尿病、アルツハイマー型認知症のリスクも上げますから、歯の健康を守ることは脳と体の健康を守るために必須です」(伊賀瀬さん)
「アルツハイマー型認知症患者の脳から、歯周病菌のひとつ・ジンジバリス菌が発見されています。歯周病を予防・治療し、脳に菌が入り込むリスクを減らすことは、非常に重要でしょう」(白澤さん)
魚のアブラ
●オメガ3系の油が脳機能を高める。サプリで補っても。
タンパク源は、できるだけ魚、特に青魚を食べてと伊賀瀬さん。
「イワシやサバに含まれるオメガ3系の油は、血液をさらさらにし、脳機能を高めることで知られています。東北大学の研究では、魚の摂取量が多いほど認知症になるリスクが低いとも。食事で補えない人はサプリメントを上手に活用してください」(伊賀瀬さん)
「魚の中ではサーモンもおすすめ。オメガ3に加え、脳内で神経細胞が情報をやりとりする際のつなぎめ・シナプスの強化に重要なビタミンDも豊富だからです。水煮缶でもいいので、こつこつ食べ続けましょう」(白澤さん)
腸内環境
●脳の健康を守るためにも、腸を元気に。
緊張して腹痛や下痢を起こした経験のある人は少なくないはず。これは「脳腸相関」といって、脳と腸の密接な関係を示している。
「脳がストレスを感じると腸内環境が悪化し、腸内環境が悪いと脳にも悪影響を及ぼすのです。腸を健康にするためにはビフィズス菌などの善玉菌を増やすことが大切。中でもおすすめは、『ビフィズス菌MCC1274』。認知機能の改善が期待できるという研究結果が出ています」(伊賀瀬さん)
「脳内の神経伝達物質で、幸せホルモンともいわれるセロトニンは、脳の何十倍も、腸で多く分泌されていることがわかっています。食物繊維や発酵食品を積極的に摂り、腸内環境を整えましょう。食品添加物や人工甘味料を避ける、体に合わないものは摂らないといったことも大切です」(白澤さん)
まだまだあります、脳に効く、あんなこと・こんなこと。
脳を空っぽにする時間を持つ。
脳の前頭前野には、短期記憶を司るワーキングメモリがある。容量には限りがあるため、ここがいっぱいになってしまうと、ストレスがかかり、物忘れがひどくなったり、情報がこんがらがったりしてしまうのだそう。
「とくに不安や心配事などのネガティブな感情は、ワーキングメモリに負荷をかけます。そこでいったん紙に書くなどして、外に出しましょう。心理学でエクスプレッシブ・ライティングといわれますが、重荷を下ろしたような感覚になり、気持ちの切り替えがしやすくなるだけでなく、認知機能の向上も確認されています」(伊賀瀬さん)
脳を空っぽにする方法は、書き出すほか、運動をしたり、温泉に浸かったり、自分に合った方法でいい。意識して、ワーキングメモリに空き容量を作る時間を持つことが大切だ。
片足立ちで、脳の萎縮を防ぐ。
目を開けたまま、やりやすいほうの足でいいので、片足立ちをしてみよう。どのくらい立っていられるだろうか。
「平均年齢67歳の390人に、1分を上限に片足立ちをしてもらいMRIで脳を調べたところ、時間が短い人ほど、脳が萎縮していることがわかりました。片足立ちができないということは、サルコペニア(筋肉量や骨量が減少する老化現象)になっていると推測されます。サルコペニアになると、血管の老化を促進、脳梗塞や脳の萎縮を招くのです」(伊賀瀬さん)
いま片足立ちができない人も、毎日行うことで筋肉を鍛え、骨密度を上げる効果も期待できる。一日3回、1分ずつを目標に。ぐらつく人は指で壁やテーブルを押さえてもいいので、歯磨きタイムなど日常の中に取り入れて、練習していこう。
おしゃれに興味を持ち、堂々と若づくりを。
年相応が望まれる風潮もあるが、若々しい格好で、脳も若返るという。
「ハーバード大学の研究では、70〜80代の男女に20年前に流行した服を着て、当時の映画や音楽を鑑賞してもらったところ、1週間で脳の情報処理能力が上がりました。20年前の気持ちを思い出したら、脳も若さを取り戻したということ。ですから堂々と若づくりをしてください。とはいえ単に若い人を真似して気分が上がらないのでは逆効果。最近はシルバーヘアを楽しむ方も多いですし、自分らしく、若々しい気持ちでいられる格好を」(伊賀瀬さん)
「おしゃれは認知症のバロメーター。認知機能が落ちてくると、見た目に気を使う余裕がなくなります。逆に、おしゃれしたい、若々しくいたいという気持ちがあるうちは、大丈夫。ぜひファッションを楽しんで」(白澤さん)
推し活で、脳を活性化する。
好きな俳優や歌手、キャラクターなどを応援する「推し活」は、中高年の認知症対策に有効だという。
「脳は新しいことや興味のあることをするときに活発に働きます。ライブやイベントに出かけ、グッズを買うといった活動は、確実に脳を元気にします。ファン同士の交流が生まれれば、会話も弾むでしょう。周りに呆れられても気にすることなく、推し活を楽しんでください」(伊賀瀬さん)
「私がこれまで会ってきた100歳を超えた人たちの多くは、自分の世界を持っていました。楽しいこと、うれしいこと、心地よいことをすると、脳が活性化します。スポーツ選手やアイドルを応援するのもいいし、趣味を追求するのもいい。自分が夢中になれるものを見つけることは、長寿脳に必要なことなのです」(白澤さん)
手軽に作れるスーパー緑茶を飲む。
お茶は脳にいい。玉露に豊富なテアニンは短期ストレスから脳を守り、神経伝達物質にも影響。煎茶や番茶に多いカテキンは、抗酸化作用により脳の酸化を予防する働きが期待できるのだ。
「テアニンの抽出温度は70度以下、カテキンは90度と高温なので、ふたつを同時に摂ることには無理があります。そこで私は緑茶のペットボトルに、玉露の茶葉を入れています。ペットボトルのお茶は高温抽出なのでカテキンが含まれ、玉露は水出しでテアニンが抽出できるからです。このスーパー緑茶、ぜひお試しください」(白澤さん)
不安になりすぎずスマホの進化に頼る。
人の名前が出てこなかったり、何をしようとしていたのか忘れたりすると、「歳のせい?」と不安になるが……。
「自分の脳や健康状態について、悩みすぎるとストレスがかかり、かえって脳の老化を早めます。顔はわかるのに名前を思い出せない俳優は、映画名などを検索して、スマホで調べればいいのです。今後、認知症になってしまっても、道具を使うことで生活に支障が出なければ問題なし。できないことを気に病むのではなく、文明の利器を活用して、楽しくたくましく生きることが長寿脳につながります」(白澤さん)
『クロワッサン』1094号より