温泉療法専門医に教わる、ぐっすり眠るための「よい入浴」。
撮影・中村ナリコ(人物)、黒川ひろみ(静物) イラストレーション・sino 文・一澤ひらり
入浴は、40度のお湯に10分間、90分後に眠ると安眠できる。
入浴はスムーズに快い睡眠へと誘う最も簡単な方法、と推奨するのは温泉療法専門医の早坂信哉さん。
「よい睡眠をとるには床につく90分前に入浴することが重要です。入浴でいったん体温を上げて、そこから体温が急落していくタイミングでベッドに入ると、深い睡眠を得られることが多くの研究でわかっています」
ポイントになるのが、安眠を招くのに適した入浴時のお湯の温度だ。
「湯温は40℃が理想的です。42度以上の熱いお湯になると、交感神経のスイッチが入って体が興奮状態になり、血圧が上がって心拍数も速くなる。また38度以下だとぬるくて温熱効果を期待できません。入浴時は副交感神経を優位にしてリラックス状態にしたいので、熱すぎずぬるすぎない40度がちょうどいい温度になりますね」
ここで大事なのは入浴している時間。
「40度のお湯に肩まで浸かって10分がベストです。体温が0.5~1度上がり、血流がかなりよくなります。長湯をすると体温が上がりすぎてのぼせてしまうので、浸かるのは15分までに。途中で体を洗ったり、洗髪をしても延べ10分ほど湯に浸かればOKです。ただ、冬になって体が冷え切っている時は、時間ではなく額に汗がじんわり浮かぶのを目安にしてください」
全身浴によって温熱効果だけでなく、浮力と水圧の効果も加わり、関節や筋肉の緊張がゆるみ、入眠しやすくなる。
よい入浴のための秘訣1: 芳しい入浴剤が塩素を消してお湯をマイルドに。
一番風呂は体によくないといわれる。水道水の塩素や体液との浸透圧の差がアトピーや肌の弱い人には刺激になるからだ。
「水道水の塩素濃度が高くなるとアトピーが悪化するという研究結果があります。また、日本の水道水はミネラルがほとんど入っていない軟水ですが、体液は0・9%ほどの塩分濃度があるので、その浸透圧の差も肌に刺激になります」
そうした肌への刺激を速やかに緩和してくれるのが入浴剤。
「ほとんどの入浴剤には『アスコルビン酸』というビタミンCの原末などが入っていて、塩素を打ち消してくれます。また、入浴剤には何かしらミネラル成分が入っていて、肌ざわりが柔らかくなりますね」
入浴剤には無機塩類系、炭酸ガス系、生薬系など大きく分けると6種類ほどあり、選ぶ楽しみも。
「入浴剤は保温効果が高まるし、血流もよくなります。しかもよい香りが浴室に漂うので、アロマのリラックス効果も得られます」
よい入浴のための秘訣2: お風呂上がりは10分以内に保湿。これが鉄則!
「入浴すると皮膚の水分量が増えますが、入浴して10分経つと水分量は元に戻り、何もケアをしなければ30分後には入浴前よりも水分量が減ってしまいます。なぜなら湯船に浸かっている間に、水分を保つ働きをするセラミドが溶け出してしまうからなんです」
肌にとって長湯は禁物。入浴後はすぐにボディクリームなどで保湿しないと乾燥が進んでしまう。
「肌の潤いを保つためには、お風呂から上がったら10分以内に保湿することを心がけてください」
よい入浴のための秘訣3: 照明を落とし、音楽を聴いて湯にたゆたう。
よく眠るためには、入浴での照明も大切な要素になる。
「夜に明るい光を浴びると睡眠ホルモンのメラトニンの分泌が抑えられ、体内時計を狂わせることになってしまいます。浴室は照明を暗めにするか、照明を消して脱衣所からの柔らかい光だけで入ると気持ちが静まります」
さらに心地よいBGMを聴けばリラックス効果を高めてくれる。
「いまはワイヤレスの防水スピーカーもいろいろな種類が出ていますから、バスルームで音楽が聴けます。交感神経を刺激しないヒーリング系のBGMなら心が落ち着いて穏やかな気持ちに。また波の音、小川のせせらぎ、鳥のさえずりといった自然の音を聴けるアプリもあるので、そういう音を聴くのも癒やされます。私は防水のポータブルラジオを持ち込んで、FM放送の音楽を聴いています」
ほの暗い浴室で、好きな香りの入浴剤で湯船に浸かって聴けば、とっぷり温泉気分にひたれる。
『クロワッサン』1059号より