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噺家にとっての“ネタおろし”を解説。│柳家三三「きょうも落語日和」

イラストレーション・勝田 文

噺家にとっての“ネタおろし”を解説。│柳家三三「きょうも落語日和」

7月中旬、ひさしぶりに“ネタおろし”をしました。ネタおろしとは、今まで演じたことのない落語の演目を覚えて初めてお客さまの前でおしゃべりする、つまり初演です。現在高座にかけている噺はどれも必ずこのネタおろしという洗礼を受けて、自分の持ちネタとなっています。

二ツ目の頃はやたらめったらにネタおろしをしていた時期があります。先輩がたからも「若いうちにどんどん覚えたほうがいい」とアドバイスをいただくことも多かったので、最低でも月に一席、多いときは三席も四席も、年間で三十席くらいネタおろしなんてこともありました。そのかわりじっくり練り上げる時間がありませんから乱暴な出来の噺も多く、一度演じてそれっきり、お蔵入りになってしまったものもずいぶんありまして。

近年は年齢的に記憶力が落ちたし、手がけたことのない噺も少なくなりましたし、覚えたものをよりよく完成度を高めたい、などの理由からネタおろしは年に数席だけです。ま、いちばん大きいのは記憶力の低下、でも長年の経験のたまもので“忘れたときの対応力”はスキルアップしています。

今回は「祇園会」というネタを初演しました。この噺は途中で江戸ッ子が祭囃子の笛や太鼓の音色を口でスピーディーかつリズミカルにまくし立てる部分があり、ここは一語一句正確に言い立てなくてはなりません。ところが当日の私は緊張であちこち忘れたり間違えたり……。けれどお客さまにはそんなことは感じさせず、何事もなかったかのように演じ続けて楽しい落語日和をご提供。内心自分のずうずうしさにあきれてましたよ。

柳家三三(やなぎや・さんざ)●落語家。公演情報等は公式サイトにて。
http://www.yanagiya-sanza.com

『クロワッサン』1027号より

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