目の前にお客さんがいないのは、お世辞にもやりやすいとは言えない環境です。落語は暗記した科白をただしゃべるのではなく、客席の雰囲気を感じとって同じネタでも毎回少しずつ演じかたが変わります。妙な言いかたですが、高座で発する言葉は、半分はお客さんに決めてもらっているんです。
そのお客さんがいないーーこれは無理かなと思ったら、カメラの向こうに楽しみにしてくれているかたがたがいると、なぜかはっきりと、驚くほど確かに私には感じられた。それは思いも寄らぬうれしい感覚でした。そうすると目の前に噺の中の風景がみるみる現れて、落語を演じるというより、噺の世界を夢中で楽しんだような時間でした。もちろん会場で皆さんの前でしゃべるのがいちばんです。けれどこの形もナシじゃありません。今はもうしばらく、それぞれのお家のあなたと落語日和をともに楽しませていただきます。