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【紫原明子のお悩み相談】父親になりきれていない自分が嫌でたまりません。

『家族無計画』や『りこんのこども』などの著書があるエッセイストの紫原明子さんが読者のお悩みに答える連載。今回は彼への不満が募り、好きという気持ちが押しつぶされそうな女性からの相談です。今回は子育ての仕方において心配事を抱えるお父さんからの相談です。

<お悩み>

初めまして。 悩み相談毎回とても楽しく拝見させていただいてます。 いろんなことに興味津々の子供のことで悩んでいるのですが、紫原様の見解を是非教えてください。

昨年の暮れに結婚しまして、妻と娘(連れ子)ができました。 幸せいっぱいの家庭で何一つ不満などございませんが、父親になりきれていない自分がいます。子供のことは大好きです。ですが、前に一度妻から「力ずくで子供を止める節がある」と指摘されました。 例えば、子供が行きたい方向があるけど今の目的とは違う方向なので強制的に抱っこして反対に進んだりするといった、子供の自由を奪う行為です。 言われてハッとしました。どんなに時間がかかっても子供の安全さえ保障できれば興味があることを優先してさせてあげるべきだと言われ納得しました。ただ、怖いのは日常生活のいろいろな場面でこの行為をしてしまっている自分がいることに気づいたということです(服を着替えさせるときに脱ぐのを待つのではなく脱がせてしまう等)。子供の行動にイライラするとかそういったことは全くなく完全に無意識でやってしまっています。気づいたことから治そうとはしていますが、根っからの性格で指摘されないと気づけなかったりします。半面大人の力なので暴力にも近いところがあるとも思っていて、自分自身が怖いなと思っています。 22歳で結婚して若輩ながら途中参加ながら子供の面倒をみさせてもらえることになり本当にうれしいのですが、 気に入らない事を力で解決するような大人になってしまっているようで自分に強い嫌悪感を抱きます。

自身の親父から殴られたこともあるので暴力なんて大っ嫌いだし、強制することも嫌いなのですがどうすればいいのかと悩んでます。 まとまりがなく読みにくい文章になりましたがどうぞよろしくお願いします。

(たい焼きはクリーム派/男性/建築士で23歳既婚。保育園の娘一人(連れ子) )

紫原明子さんの回答

たいやきはクリーム派さんこんにちは。
なるほど、私も20代の頃はクリーム派だったんですが、30代後半の今、気づけば白餡派です。この調子でいけば40代で黒こし餡派になり、50代ではついに黒粒餡派の境地に達することができそうな気がしています。今はまだ粒餡の粒は誤って入った異物だと思っています。

ってお悩みはそこじゃなかったですね。このたびお父さんになられたとのこと、おめでとうございます。親になるというのは本当に大変なことですよね。それは、ステップファーザー(継父)であろうと血縁のある父親であろうとお腹を痛めて産んだ母親であろうと、誰にとっても同じことなので、どうか焦らず、ゆっくり親になっていきましょう。ましてや自分の接し方が子供にとって適切かどうかと思い悩み、改めようとするなんて、それができずに苦しんでいる親が世の中にはごまんといるわけです。気をつけようと思うことで問題はほぼ解決したも同然でしょうが、それで終わってもなんなので、大変恐縮ですがもう少しだけ話を聞いていってくださいね。

私の子供達は今18歳と14歳です。お恥ずかしながら彼らが小さかった頃には微塵も気が付かなかったんですが、子供って小さい頃からひとりひとり個性を持っていて、よく見ていると、要所要所でその個性をビンビンに発揮しているんですよね。当たり前のことのように聞こえるかもしれませんが、昔はそんな当たり前のことに気づけなかったんです。性格や好みがどう形成されていくのかも、何に興味を持つかも、器用になるか不器用になるかも、どんな美意識を身につけるかも、すべて親である自分の接し方が決めると思ってたんです。だからこそ、自分がなんとか立派な親にならなければとそればかり思っていて、そこに躍起になるあまり、子供の様子を観察する、というもっとも基本的なことをすっかりおろそかにしていました。幸運なことにそれでも今、子供達は私から見る限りすくすくと育ってくれているのですが、やっぱり昔のことを思い出すと、色々と後悔や反省があります。

こうして相談をお寄せくださることからも、そもそもたい焼きさんがお子さんを大切に育てようという思いをお持ちであることはとてもよくわかります。にも関わらず、つい力ずくで子供の動きを制してしまうというのは、もしかするとかつての私のように、この「観察」という親の仕事の価値を、他の仕事より低く見積もっていらっしゃるせいかもしれません。

どんなに小さい子も、じっと見ていると、その子がその瞬間にどんなことを考えているのか、何に夢中になっているのか、何をやりたいと思っているのか、そういうことがうっすらと見えてきます。子供だからアンパンマンが好きだろう、好きな食べ物はカレーライスだろう、というようなステレオタイプを脱して、その子が何に惹かれ、何に関心を持っているかが分かれば、絵本やおもちゃ、その他あの手この手でその世界への興味をより深めてあげることができます。早く寝かしつけたり、歯を磨かせたり、栄養バランスを考えたりすることも当然子育てにおいて大事なことですが、たとえ生活ができても、自分の好きなこと、興味のあること、関心のあることがなければ、今夜眠って明日再び目覚めることを楽しみに思えません。不思議だなあと思うことはご存知のとおり英語でwonderといいますが、wonderに満ちた世の中こそwonderful worldです(ちょっとクサイことを言ってすみません)。長く続く素晴らしい人生のために、好奇心の持ち方、興味関心の深め方を示唆してあげるのは、生活習慣を身に着けさせるのと同じくらい大事なことだろうと思うんです。

ですから、ぜひ日常の子育ての中で「観察」という意識をより強く持たれるといいのではないかと思うんですが、同時にステップファーザーであるたい焼きさんは、もしかするともう一つ、特別な事情を検討する必要があるかもしれません。それは、奥さんの罪悪感の問題です。これだけお子さんのことを考えていらっしゃるたい焼きさんが娘さんのお父さんになってくれて、奥さんはきっと、幸せを感じていらっしゃると思います。一方で、世の“母親”という存在はえてして思いのほか大きな十字架を背負わされているので、もしかすると奥さんも、自分の再婚が身勝手なことなのではないか、そのせいで子供に負担をかけていないかということを、口に出さずとも案外気にされているかもしれません。

そこでやや極端な提案ではありますが、たい焼きさんはもう、お子さんの教育やしつけという役割から一旦降りちゃったらどうでしょう。厳しく言うとか、きちんと生活させるとか、そういうことは一旦奥さんに任せて、たい焼きさんはとにかく、お子さんをよく観察して、とことん遊びに付き合う。お子さんの毎日を楽しくする人になるのです。あえて言う必要もないかとは思いますが、これは決して楽なことではありません。指示したり、叱ったりするよりはるかに根気を必要とすることです。でも、だからこそそれをやることによって奥さんも「この人は何があっても子供を傷つけない人だ」と安心することができるし、ご家族の信頼も強固になるはずです。そしてその土台があればこそ、たい焼きさんがお子さんに多少厳しいことを言ったとしても大丈夫な関係になるのではないかと思うんです。

簡単に言ってますが、非常に難しいことだというのは重々承知しております。私も19歳で長男を産んで母親になりました。今思えば、若いが故にできなかったこと、難しかったことことがたくさんありました。忍耐力というのは、その中でも顕著に欠けていた能力です。本当に自分はダメな人間だなあと毎日のように落ち込んでいたけれど、今思えば、反省しながら毎日を繰り返す中で、忍耐は少しずつ鍛えられてきたような気もします。しつこく言ってますが、たい焼きさんはちっともダメなお父さんではありません。どうかゆったりとした気持ちで、すでに十分良い今を、少しずつより良い明日に繋げていきましょう。

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イラスト:わかる
イラスト:わかる

紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter

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