万里さんのエッセイで、とんでもなく食いしん坊で行動力のある妹として度々登場するユリさん。当事者だからこそ知る舞台裏が明かされているのも本書の魅力だ。
「ユリさん、あの話本当?なんて聞かれてもずっと黙ってたんですよ。万里が苦労して書いたエッセイですし。ひさしさん(夫の故・井上ひさしさん)がよく言ってたんだけど、事実と真実は違うと。事実を何倍も際だたせることで真実がちゃんと伝わることがある。だから書く時の誇張は真実をはっきりさせるための手段だからいいんだよ、って。でもね、もうそろそろいいかと思って」
そうして明かされる事実もまた愉快(詳しくは本書にてお確かめください)。ただ、やはり一番意外だったのは、進路についてぐじぐじ悩んだり、謎のお化けに怯えたりといった若かりし頃の万里さんの素顔だ。その姿は我々の知る米原万里像からは少し遠い。