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【木皿 泉こと 和泉 務さん × 妻鹿年季子さん】世話をするから大事になる、手放したくなくなるんです。【後編】

  • 撮影・青木和義

いるのが当たり前じゃないから、毎日が、「あ、おった」なんです。

「描きたいのは、お菓子みたいな、生きる上での弾みになる物語」(年季子さん)

手術の末、左半身に麻痺は残ったが命に別条はなく、間もなく集中治療室を出て大部屋へ。介護生活が始まった。
「僕が入院した部屋が看護師さんたちから“ラブラブの部屋”って呼ばれてて、おもしろかったな?」
「そうそう、私たち以外の3組は、旦那さんが喋れないくらい重度だったけど、奥さんたちがすごく一生懸命面倒みてたんだよね。ある時、私たちが籍入れてないって言ったら、3人に囲まれて『なんで籍入れへんの?』って詰め寄られて。ある奥さんは『結婚してみ、夫のことが可愛くなるから』って」
「その人は仕事の後、毎日看病に来て、2時間サスペンスを観ながら旦那さんの体をマッサージしてた」(務さん)
「それで『大変じゃないですか?』って聞いたら、『この人が元気で働いてる頃、本当にいい夫で、すごく良くしてもらったから、今やらないと絶対に後悔する』って。泣けるなぁって思いました。愛なんてないと思ってたけど、これが愛の風景か、と」(年季子さん)

一方、務さんは少しずつ快方に向かい、治療やリハビリを経て翌年の4月から自宅介護へ。その頃依頼されたのが、ドラマ『野ブタ。をプロデュース』の脚本だった。
「自宅介護しながら連ドラなんて絶対無理だって、最初は断ろうと思ったけど、今できないなら1年後もできないんじゃないかって思い直して引き受けました。お金も欲しかったし。でも全然書けなくて、10月スタートのドラマなのに、8月になっても1本も書けてなかった」(年季子さん)
「最悪の状態やったな」(務さん)
「それでもトムちゃんがベッドの上からいろいろアイディアを言ってくれて。腰もぐにゃぐにゃで座ることすらできないのに、本当に頑張ってくれた」

二人三脚で必死に書き上げたドラマがヒットし、「おかげで家のローンが組めた」という。介護設備を整えるため、現在住むマンションを購入することになったが、年季子さん名義でローンを組むには夫を保証人にする必要がある。そこで「早く入籍してください」と銀行から催促されるように。
「手術や入院の手続きもすべて“内縁の妻”で通したし、“ラブラブの部屋”の奥さんたちに言われても結婚しなかったのに、最後は銀行の人に急かされて結婚しました(笑)」(年季子さん)
「ほんと、めちゃくちゃな夫婦でしょう」(務さん)

本棚には、所々に二人の似顔絵や作品にまつわるイラストなど思い出の品が飾られる。

しかし、新居も購入し、務さんの病状も落ち着いてホッとした矢先、今度は年季子さんが介護うつのような状態になってしまう。急に涙が止まらなくなり、仕事も手につかなかった。
「張り詰めてたものがプツンと切れちゃったのかもしれません。しんどいのを一人で抱え込んで、誰にも助けを求めなかったから、追い詰められちゃった。でもその時も、トムちゃんは『僕がやらねば』って感じで仕事のことも、精神的にも助けてくれたんです」

今では年季子さんの症状もなくなり、務さんは本を読んだり、自分で食事ができるまでに回復した。毎朝目が覚めて隣にいる務さんを見ると、年季子さんは「あ、おった」と思うそう。
「いるのが当たり前じゃないんですよね。実際病気もしたし、病気してなかったら別れてたかもしれないし、夫婦だって何が起こるかわからない。『旦那がいなくなればいいのに』なんて、本気なのかなぁって思います」
「売り言葉に買い言葉みたいな言い争いで、永遠に離れてしまうことだってあるもんな」(務さん)
だからこそ、喧嘩をしても出かけるまで、寝るまでには仲直りする。長引かせないのが二人のルールだ。

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