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【岩井志麻子×滝本誠 対談】異世界をのぞく、偏愛的読書の愉悦。【前編】

  • 撮影・三東サイ   

滝本 事件ものでいうと、ドイツの弁護士で小説家のシーラッハが書いた、実際の事件をもとにした短編集『犯罪』は面白かった。

岩井 読みました! それまでずっとまっとうに生きてきた人物がある日突然殺人を犯してしまう。その背景を克明に描いた話など、非常にリアリティがあって怖かったです。なにか「許せない」という彼なりのツボがあったんでしょう。

滝本 日本で起きた事件ではとくに興味のあるものはありますか? 

岩井 「首都圏連続不審死事件」を連想させる女性が登場するミステリー『BUTTER』は読みました。彼女がこれは私とは無関係だとブログで激怒しているそうですが、この本のどんな部分が彼女を怒らせたのかは興味がわきましたね。この事件は首都圏で起きて彼女のリッチだった生活が話題にりましたが、私としてはより関心をもったのは、鳥取連続不審死事件のほうです。青木理さんのノンフィクション『誘蛾灯 鳥取連続不審死事件』を読み、独自に関係者に取材もしましたが、何人もの男性が彼女に夢中になりお金をつぎ込んでいたという事実には驚いたし、今でも、彼女に癒やされたと話す元交際男性の気持ちも不思議でした。この人たちは決して不幸ではなかったのかも、そう思えてきてしまったり……。現実に起きた事件からはいつもいろいろなことを考えさせられます。事件の背景にやりきれないような貧困状態があることもありますね。私、実際の事件の背景を書いた実録物みたいな本が昔から好きなんです。週刊新潮の、実在の事件をもとにした話を読み物化した、古くから続く名物連載「黒い報告書」が好きだったんですが、私も何度か執筆したことがあるんですよ。

『犯罪』フェルディナント・ フォン・シーラッハ 酒寄進一 訳 創元推理文庫
『BUTTER』柚木麻子 新潮社
『誘蛾灯 鳥取連続不審死事』青木理 講談社
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