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【岩井志麻子×滝本誠 対談】異世界をのぞく、偏愛的読書の愉悦。【前編】

  • 撮影・三東サイ   

滝本 ところで、岩井さんの新作『嘘と人形』は今、巷で話題の、いわゆる「イヤミス」(編集部註・読んだあとにイヤな気持ちになるミステリー)だそうですね?

岩井 時流に乗ろうと初めてのイヤミスに挑戦しました(笑)。テーマのひとつは貧困です。今どんなことがいちばん怖いかなあ、戦争?病気?地震?……と考えた時の答えのひとつが貧困なんですね。それも、明日食べる米がない、という極貧ではなく、今の日本に存在する新しいタイプの貧困です。お金がないのに高価な最新のスマホを持ってる、光熱費を滞納してるのに芸能人の追っかけにお金をつぎ込む、というような人ってけっこういますよね。そういう人物を描いてみました。今の時代、ネットでなんでもできる、どことでも繋がれる、自分は誰にでもなんにでもなれると思ってしまいがちだけど、それはやはりリアルな現実ではない。それに気づかず、リアルな世界と虚構の世界のバランスが崩れてどんどん妄想の中に迷い込んでしまう。そんな危うさ、怖さを描きたかったんです。

滝本 たしかに無名の人間がネットで一日にして世界中に知られる存在になるのも可能ですね。叩かれるのも簡単だけど。読者がイヤミスに抱く感情って、怖いけど自分にも起きるかも、とか、理解できる部分があるから不快で不安な気持ちになる、ということかもしれない。

『嘘と人形』岩井志麻子 太田出版

『クロワッサン』955号より

●岩井志麻子 作家/『ぼっけえ、きょうてえ』で1999年日本ホラー小説大賞、2000年山本周五郎賞受賞。コメンテーターもこなす。待望の新作『嘘と人形』(太田出版)が刊行されたばかり。

●滝本誠 映画評論家/京都府出身。初の評論集『映画の乳首、絵画の腓』が幻戯書房より近日復刊。ジム・トンプスン『天国の南』(文遊社)、ジェニファー・リンチ『ツイン・ピークス ローラの日記』(角川文庫)の解説も。

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