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敷地13坪に茶室も。建築家の自邸「縦露地の家」。

各階9坪に満たないスペースでありながら、いろんなところに居場所をちりばめた居心地のいい家。建築家の高野保光さんに設計のポイントを聞いた。
  • 撮影・小出和弘 文・後藤真子

建てた当時は家族4人暮らしだったという、建築家の高野保光さんの自宅は、なんと各階の面積が9坪にも満たない家。敷地は約13坪と聞き、いったいどんな工夫が凝らされているのだろうと、バスも行き交う早稲田通り沿いのその家を訪ねた。

外観はともすれば通り過ぎてしまいそうなほど、控えめでシンプルなたたずまい。踏み石として置かれた大小の自然石からポーチに入り、玄関をくぐると、優美な螺旋階段が目に飛び込んでくる。下りは地下の書庫へ、1階のLDKへは左手に幅広の階段を数段上り、そこから再び螺旋状の踏み板を上って3階まで続く。吹き抜けの階段室には大きな窓があり、柔らかな光が降ってくる。

室内は、幹線道路沿いとは思えない静かさだ。各階の床はウォールナットのフローリング。階段の踏み板はタモ。壁や天井は漆喰。それらの色や素材感が調和して、洗練された居心地のよい空間になっている。「いろんなところに居場所をちりばめました」と高野さん。妻の希望だった対面キッチンの向かいには、チェリーやウォールナットを使ったオリジナルの食卓と椅子がある。天井が低めなのに合わせ、テーブル高65㎝、椅子の座面高39㎝とどちらも低め。「日本人が靴を脱いで使うなら、このくらいがちょうどいいんです」と言うとおり、座るとしっくり体になじみ、とても落ち着く。

一角には畳敷きの「茶の間」も。3畳足らずだが掘りごたつ風で円卓があり、窓越しには坪庭のクロチクがそよいでいて、ほっとくつろげる。2階の主寝室と子ども部屋は、間仕切りを工夫して潔く最小限に。そのかわりバスルームやトイレにじゅうぶんな空間を割いている。3階には螺旋階段の頂上を「待合」として、あえて茶室と屋上庭園をしつらえた。その階段を外から茶室へ続く縦型の露地に見立て、高野さんは自邸を「縦露地の家」と名づけた。

「階段横の窓の外には街路樹が茂り、四季折々の姿を見せてくれます。壁に映る光と影が季節や時間によって変わるのを眺めるのもいいものです」。

豊かな時間が流れる小さな家での暮らしは快適そうだ。

地下の書庫から3階まで、ゆるやかな螺旋階段が結 んでいる。まるで3階の茶室へ続く縦の露地。各階 の天井を低めにして段数を減らし安全にも配慮。
地下の書庫から3階まで、ゆるやかな螺旋階段が結 んでいる。まるで3階の茶室へ続く縦の露地。各階 の天井を低めにして段数を減らし安全にも配慮。
1階の一角、畳コーナーはくつろげるスペース。「このくらいの段差は端に腰かけることもできて楽です」
1階のダイニングキッチンを見下ろす。天井高は190cmと低めだが、階段が吹き抜けなので開放感がある。
3階にある3畳の茶室。石垣張りの障子を開けると窓の外 には屋上庭園。小さい家でもこの遊び心がゆとりに。
2階の主寝室。間仕切りは高野さんがデザインした繊細な 障子で。上部に開口部が設けられていて狭さを感じない。
ベッド横の足元にも明かり取りが。 簾戸(すど)を開けると吹き抜けの トップライトから優しい光が落ち てくる。
随所にニッチ(凹壁の飾り棚) が作られている。電気等のス イッチを目につきにくい側面 に配しているのも心憎い。

『クロワッサン』951号より

●高野保光さん 一級建築士/その土地の自然や四季の変化に「反応」する住まいを提案。著書に『高野保光の住宅設計』(エクスナレッジ)他。

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