くらし

昭和のスター総出演で描く、 大正ロマン群像劇。│ 山内マリコ「銀幕女優レトロスペクティブ」

『華の乱』。1988年公開。東映作品。DVDあり(販売元・東映)

平成が終わって令和がはじまり、否が応でも時代について考えてしまう今日このごろ。『華の乱』が公開された1988年(昭和63年)も、まさに時代の切れ目でした。そして面白いことに劇中でも、明治から大正への移行と、その終焉が描かれています。

大正デモクラシーの世を駆け抜けた文化人たちの群像劇を撮るにあたって、当時の映画スターが集結。与謝野晶子(吉永小百合)を筆頭に、与謝野寛(緒形拳)、有島武郎(松田優作)、その心中相手となった波多野秋子(池上季実子)、女優の松井須磨子(松坂慶子)、アナーキスト大杉栄(風間杜夫)、そのパートナー伊藤野枝(石田えり)といった顔ぶれが交錯。物語は、スーパー子だくさんでワーキングマザーである晶子の忙しい日常を中心に、有島武郎との淡い関係がフォーカスされます。

晶子と武郎が実際どこまで深い仲だったかはさておき、須磨子がカチューシャを演じる舞台を観に行ったり、大杉栄の演説に遭遇したりといった同時代人のからみは、かなりワクワクさせられます。しかし生き急ぐ彼らは、一人また一人と、現世から退場する運命にあります。自死や心中、そして虐殺。愛とデモクラシーの夢破れたかのようなそれぞれの死に方を看取り、晶子は昭和17年までサヴァイブしたのでした。

監督は『仁義なき戦い』シリーズで知られる深作欣二。熱くてアクが強い演出が持ち味で、上映時間139分という長尺の間、常にテンション高めをキープ。監督と相性のいい松坂慶子にいたっては、少ない登場シーンすべてが一人芝居の独壇場、誰も慶子を止められない!という感じで圧巻です。

豪華だけれど、衣装と美術は絶妙な「汚し」をほどこされてリアリティがあり、大作映画の名に恥じないスケール感もある。監督のこだわりを尊重し、時間と手間をしっかりかけて作られた昭和の文芸大作。その系譜の、最後を飾った作品かもしれません。

山内マリコ(やまうち・まりこ)●作家。短編小説&エッセイ集『あたしたちよくやってる』(幻冬舎)が発売中。

『クロワッサン』998号より

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