晶子と武郎が実際どこまで深い仲だったかはさておき、須磨子がカチューシャを演じる舞台を観に行ったり、大杉栄の演説に遭遇したりといった同時代人のからみは、かなりワクワクさせられます。しかし生き急ぐ彼らは、一人また一人と、現世から退場する運命にあります。自死や心中、そして虐殺。愛とデモクラシーの夢破れたかのようなそれぞれの死に方を看取り、晶子は昭和17年までサヴァイブしたのでした。
監督は『仁義なき戦い』シリーズで知られる深作欣二。熱くてアクが強い演出が持ち味で、上映時間139分という長尺の間、常にテンション高めをキープ。監督と相性のいい松坂慶子にいたっては、少ない登場シーンすべてが一人芝居の独壇場、誰も慶子を止められない!という感じで圧巻です。
豪華だけれど、衣装と美術は絶妙な「汚し」をほどこされてリアリティがあり、大作映画の名に恥じないスケール感もある。監督のこだわりを尊重し、時間と手間をしっかりかけて作られた昭和の文芸大作。その系譜の、最後を飾った作品かもしれません。