東京には特色ある街がたくさんありますが、最近は駅前の地価が上がるなどして、個人商店がなかなか成り立たなくなっているようです。すると、どこの街も均質化してしまう……。そんななか、私の住む西荻窪という街は本当に昔のまま。新しい店ができても、空気が全く変わらないんですよ。
ところで、私も含め、ここの住人って“買いまわる”人たちなんです。豚肉ならここ、お豆腐ならここ、お菓子ならここというふうに。それはスノッブな行為ではなく、売り手のしたいこと、作りたい味が伝わっているがゆえの選択。ある種の信頼関係がこの街では成り立っているのだと思います。
たとえば、私が学生の頃から通っている『こけし屋』のケーキは、普段のおやつに買える値段のものばかり。安くておいしくて新鮮で、こういうお店が一番ありがたいですよね。きっとこれより質は落とさない、これ以上値段はあげない、という明快な基準がおありなのでしょう。そのバランスのよさこそ、長年住人に愛されている理由だと思います。新しいケーキもありますが、私が好きなのはもっぱら昔からあるオーソドックスなもの。パティスリーではなく、洋菓子の範疇のケーキで、懐かしい味なのに、決してもっさりしていないところがまたいいんですよね。
それから、『ポチコロベーグル』も、これが作りたい味なんだろうなということがはっきり伝わってくる店。姉妹で1日に売り切れるだけのベーグルやお菓子を焼いているんですが、自分たちのスタイルを朗らかに通しているところが素敵だなあと思って。ベーグルは噛み応えがあって、ぐっと引きがあるというか、粉の味がしっかりしています。重量感があるので、1個だけ買うこともあります。うちは二人暮らしですが、スライスしてトーストして半分ずつ食べてちょうどいいの。
デパートもショッピングセンターもない西荻窪ですが、最近はよその街からやってくる人が多いようです。結局、特徴のあるお店の“そこにしかない味”が求められているのかもしれませんね。