くらし

『救いの森』著者、小林由香さんインタビュー。「憤りを感じて物語を書き始めました」

  • 撮影・黒川ひろみ
児童保護救済法が成立した社会で、虐待、貧困に苦しむ子どもたちと、彼らを救う児童救命士の交流を描いた。角川春樹事務所 1,500円
こばやし・ゆか●1976年、長野県生まれ。2011年、「ジャッジメント」で第33回小説推理新人賞を受賞。’16年、受賞作を含む連作短編小説を収録した『ジャッジメント』でデビュー。“復讐法”をテーマにし、話題に。著書に『罪人が祈るとき』。

自ら命を絶つ子どもの数や、児童虐待の件数が増加した“日本”では、“児童保護救済法”が成立し、義務教育課程にある児童は、“ライフバンド”の装着が必須となった。いじめや虐待など、命の危険を感じた時、指紋認証でバンドを通じて、子ども自ら助けを求められるものだ。そして、子どもからのSOSのサイレンを受けて、現場に駆けつけ、保護するのが“児童救命士”の仕事だ。

「ニュースで悲しい事件を見ていて、ただ生きたいという願いさえ叶えられない世の中に憤りを感じ、物語を書き始めました。子どもが自ら助けを呼べたら救えた命もあったはずと思い、ライフバンドを考えついたんです」と小林由香さん。

新米児童救命士の長谷川創一が、放任主義の先輩・新堂敦士の下で、時には壁にぶつかりながらも、何とか子どもたちを救おうと奮闘する姿を描いた連作短編小説だ。

自分なりの答えを見つけた時、 人は強くなると思うんです。

判断を間違えれば、子どもの命が失われるという重圧に耐え切れず、震えながら現場に向かっていた長谷川は、段々と成長していく。

「彼はもともと強い人間ではなかったんです。けれど、真実を話してくれない子どもにも何回も会いにいくし、どれだけ罵られても決して見捨てない。そうやってまっすぐ向き合っていくうちに、一見わがままに見えた子どもたちも、心の奥底では“親に認められたい、愛されたい”と願っていることを知る。そして、最初は子どもたちの悲鳴にしか聞こえなかったライフバンドのサイレン音にまた違う意味を見出すんです。それは彼が児童救命士を続けていく上できっと心の支えになるはず。たとえ思い込みであっても、自分なりの答えを見つけられた時、人はもっと強くなると思うんです」

一方で、長谷川を見守る先輩救命士・新堂の暗い過去も、物語が進むにつれて明らかになっていく。

「勤務中に銭湯に行ったり、普段は冗談で周りを笑わせる新堂にも、隠された過去があるんです。それは、批判されるべき愚かなことかもしれないのですが……」

ほかにも、同級生をいじめてしまう中学生など、さまざまな事情を抱えた人が物語には登場する。だが、小林さんは簡単に彼らを責めたくないのだという。

「理不尽な世の中に怒りを感じて、それをぶつけようと物語を書き始めても、最後まで書き終えると、結局誰に怒ればよかったんだろうと思うんです。本当は、みんなただ必死に生きていただけなんじゃないかと。完璧な人間なんていないし、誰しも弱い部分がある。だから、道徳的な正しさよりも、登場人物がどう生きてきたのかを大切にしたかった。彼らの過去を知ってどう思うかは読む人それぞれでいい。だけど私は、この先どんなに残酷な物語を書いたとしても、“人間って悪くないな”という気持ちを忘れずにいたいと思います」

弱さを認めた人間が“今”を力強く生きていく姿を確かめてほしい。

『クロワッサン』994号より

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