杉浦非水展に行ってから数日経つが、わたしはその間ずっと「画像検索のありがたみ」に手を合わせて生きている。絵を描くとき、猫の仕草も蝶々の柄も夕焼け空のグラデーションも、パソコンで画像検索すれば一発でわかる。あぁ、なんて便利な時代だろう!
非水さんは日本のグラフィックデザイナーの草分け的存在。明治の終わりから戦後まで長く第一線で活躍し続けた。当時は、絵を描こうと思ったらまず参考資料を集めるのが仕事の第一歩だ。非水さんは日頃から海外の雑誌のおもしろい写真やフォントを切り抜き、自分で写真や動画(16ミリフィルム)を撮り、素材集めに余念がなかった。テーマごとに整理された膨大なスクラップ帳に、非水さんのご苦労がしのばれる。それに比べて今の絵描きは楽チンだ。
でもたぶん、とわたしはひとりごちる。パソコンの画像検索より、非水さんのやり方のほうが断然楽しいだろう。デザインに使える素材はないか?とつねにアンテナを張り巡らせる姿勢。「お、これは」に出会ったときの喜び。切り抜いて、仕分けし、保管する手間暇。思えば、植草甚一もみうらじゅんも、偏愛少年はいつの時代もスクラップ帳を作るのだ。画像検索なんかで世界を見渡した気になっちゃいけないぜ!
ギンギンにかっこいい百貨店や地下鉄のポスター、雑誌の表紙、ブックデザイン……非水さんの仕事の量と質に圧倒される。その後ろには何倍もの量のインプットがあったんだろうと思うと、ただただ、ため息。