『それでも空は青い』著者、荻原 浩さんインタビュー。「人生が動き始めた瞬間を集めました」
本撮影(P.94~97)・中島慶子
撮影・黒川ひろみ
〈空がどんなに青くても、日差しが暖かくても、気持ちのいい風が吹いても、人は死ぬ。〉(冒頭文)
「大切な人を亡くした時、ふと空を見たらものすごくきれいな晴天で。人の人生とか関係なく、空ってそれでも青いんだな、と厭世的な気分でつけたタイトルでした」
と荻原浩さん。バツイチ年上彼女との距離がなかなか縮まらないバーテンダー、ストーカーに悩まされている女性……。7人の男女の“ままならない人生”をテーマに構成された短編集だ。
「あなたによく似た機械」は、出会った頃よりもそっけなくなった夫に悩む妻を描いた。ある日、寝室に落ちていた、出所の分からないネジに気付く妻。不意に、「彼が変わってしまったのはAIだから?」と疑うところから物語が進み、真実が明らかになっていく。
「相手がロボットじゃなくても、男女間のすれ違いはよくありますよね。この短編集は、恋愛や友人関係など、なかなか思いどおりにいかない主人公の人生が、出会った人々に影響されて、動き始めた瞬間を集めています」
“読んでいて気持ちいいね”と 言われるほうがうれしいですね。
戦時中の祖父を、孫息子の視点から語った「人生はパイナップル」は、単行本をまとめるにあたって新たに書き下ろした作品だ。
「2人の共通言語は野球なんですが、おじいちゃんと孫がキャッチボールをしながら、心を通わせていく様子がふっと浮かんできた。おじいちゃんはそのボールにどんな思いを込めるんだろう、と考えながら書いていました。他の作品は、自分の人生が語られているか、他人に自分の人生を重ねている。だから、ある人の人生を別の人が表現する、という新しい視点のものを入れたかった。一番最後に載せる短編ということもあり、じっくり時間をかけて書き上げました」
さまざまな技巧を使うことで、文章に自分だけの色を出す工夫もしたのだという。
「双子についての短編では、言葉遊びをしたんです。セリフを対にしてみたり、隣り合う文の字数を揃えたり。とにかく、テンポを意識しました。けれど、読む人にとっては、気にならないくらいの、自然な感じで。内容を褒められるよりも、“読んでいて気持ちいいね”と言われるほうがうれしいですね」
コピーライターの経験を持つ荻原さんは、読者のイマジネーションを支える文章をおろそかにはできないのだろう。
「文字だけの小説はどうしても読み手の想像力に委ねる部分が大きいですから、内容への感想は人それぞれでしょう。だけど、文章は嘘をつかない。いい文章と悪い文章は必ずある、と思っています。“どんな文章でも、それは個性である”と言ってしまうのは逃げなのかな、と。だから文章にはこだわりを持っていきたいですね」
物語や言葉とまっすぐに向き合う荻原さんの人柄が、本の中からにじみ出ている。言葉が織りなす想像の世界に浸りたい。
『クロワッサン』992号より
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