林の中をさまよったり、丘の道を歩いたり、そうして野の花に出会うんです――足田輝一(ナチュラリスト)
文・澁川祐子
林の中をさまよったり、丘の道を歩いたり、そうして野の花に出会うんです――足田輝一(ナチュラリスト)
春の訪れを目に見えて感じられるようになるこの季節。時節にからめた「くろわっさん・あらかると」という短い読みものでは、<散歩の足をのばして、野の花をみつける>と題し、郊外へのちょっとした散策をすすめています。
案内役として登場するのは、ナチュラリストの足田輝一さん(1918~1995)。東京近郊を中心に失われゆく雑木林を自ら歩いてまとめた『雑木林の博物誌』(新潮選書)をはじめ、身近な自然の魅力を伝える著作を数多く残した人物です。
足田さんが雑木林の魅力にとりつかれたのは、京王線・京王片倉駅近くの片倉城跡公園という自然のままの公園と、その裏に続く台地を歩いたことがきっかけ。そこでは春になると、東京近郊でいちばんよく目につくタチツボスミレをはじめ、カタクリの花、シュンラン、キブシやヤマザクラ、ウコンバナなど、いろんな草木の花々が咲きそろう。そうした野の花を<林の中をさまよったり、丘の道を歩いたり>しながら、みつけて歩くのがいいのだと語ります。
ほかにおすすめは、埼玉の三富新田や、武蔵野の雑木林の面影を残す東京・杉並の大宮八幡宮付近、多摩丘陵に位置する稲城のあたり(足田さんが歩いた当時とは少なからず変化していると思いますが、これらの地域にいまも雑木林はあります)。
花の名所に行くのもいいけれど、どこに咲いているかわからない花を探しながら、ぶらりと歩く。そんなゆとりある、春の味わいかたを教えてくれるひと言です。
※肩書きは雑誌掲載時のものです。
澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。
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