くらし

物を見ることを1日でも休んだらおわりです――磯崎勇(まいづる屋店長)

1977年創刊、40年以上の歴史がある雑誌『クロワッサン』のバックナンバーから、いまも心に響く「くらしの名言」をお届けする連載。今回は、合羽橋道具街で働く人の声から、ありし日の街の風景を読みとります。
  • 文・澁川祐子
1978年2月号「一万円持って合羽橋へいったら」より

物を見ることを1日でも休んだらおわりです――磯崎勇(まいづる屋店長)

厨房道具や食器を積みあげた店が軒を連ねる、合羽橋道具街。いまでは外国人も訪れる観光名所になっていますが、その40年ほど前の姿が誌面に残されていました。

瓦屋根の建物や手書き看板など、いまとは違うレトロな街並み。売られているのは、いまと同じく鍋やフライパン、ざるといった厨房具から、飲食店の備品までさまざま。合羽橋でみつけた道具カタログが記事の中心を占めていますが、街の人々の声を集めたページも読み応えがあります。

漆器店の店主が、<大正2年かそこいらですかね。初めは古道具屋の街だったんですよ。屋台車なんかが並んでてね>と街のなりたちを語れば、菓子道具店の主人は、店に残っている手彫りの菓子の木型を見せて<今じゃ、作る職人は一人っきりいない>と嘆く。そこかしこに歴史の証言がちりばめられています。

今回の名言は、そんな声のなかから拾ったもの。合羽橋土産としても人気の、食品サンプル店の店長の言葉です。

店長にとっては<3度の食事だって、仕事>。<納豆がでてくりゃ、かきまぜながら、糸の具合がどんなふうか、と見てる>と語ります。<物を見ることを1日でも休んだらおわり>というひと言には、サンプルのリアルさを追求してやまない職人魂があふれているのです。

道具街に腰を据え、歩みをともにしてきた人々の姿。それこそが、合羽橋の魅力を形づくってきたのでしょう。単なる商品紹介に終わらない、街の息遣いが伝わってくる誌面にタイムスリップの気分を味わいました。

※肩書きは雑誌掲載時のものです。

澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。

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