彼らはきっと、遊ぶことが楽しく面白いから、遊ぶのでしょう――増井光子(獣医師)
文・澁川祐子
彼らはきっと、遊ぶことが楽しく面白いから、遊ぶのでしょう――増井光子(獣医師)
獣医師の草分け・増井光子さん(1937-2010)が、動物の生態をとおして育児を考える連載。今回のテーマは「遊び」です。オランダの歴史学者ホイジンガは、人間を「ホモ・ルーデンス」(遊ぶ人)と唱えましたが、動物ももちろん遊びます。そして人と同じく、一般に動物も大人より子どものほうがよく遊ぶと増井さんは語ります。
たとえばチンパンジー。子どもが好きな遊びは、レスリングやブランコ、回転しながら走りまわる遊び、鬼ごっこなど。弟や妹が生まれると、子守りごっこもするのだとか。
一方、大人のメスのお気に入りの余暇活動はグルーミング。日向に座り、お互いに毛づくろいしている姿は、まるで編み物をしながらおしゃべりを楽しむご婦人たちのようだといいます。翻って大人のオスたちは、子どもたちの遊び相手の役割を担っています。
またチンパンジーは、ヒトの与えるおもちゃは好まず、木の枝や草の束、板切れ、石ころなどを喜ぶと指摘。おもちゃがあふれるなかで育ち、山野に出かけたときにどう遊んだらいいかわからない現代っ子が多いことにふれ、<豊富に物さえ与えれば、賢い子になると、安易に考えて、創造の楽しみをつんでしまった事によるのでしょう>と締めくくっています。
遊ぶのが楽しいから、遊ぶ。人間は、遊びに何かと目的を見出そうとしますが、遊びとは本来、自由に想像力を働かせるからこそ楽しいもの。動物たちの生態を通して、遊びの真髄が垣間見える名言です。
※肩書きは雑誌掲載時のものです。
澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。
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