二人の主人公とは別に注目を集めているのが語り手を務める昭和の大名人、落語家の古今亭志ん生。宮藤さんによれば、『いだてん』が扱う庶民の物語には落語がよく似合うそう。この時代を語るときに避けて通れない「戦争」の、深刻な側面以外も描きたいという気持ちもあった。
「東京では好きな落語ができないからと、勝手に満州に行って死にかけたという志ん生さんのエピソードがすごく好きで。戦争は絶対よくないことなんですけれど、渦中にいた人たちは毎日泣いてたわけじゃなく、笑っている日もあった。悲惨な部分だけ切り取って悲劇みたいにはしたくなくて、戦争中にもこんなエピソードがあった、と志ん生さんを通して描きたかった。都合がいいことに金栗さんと志ん生さんがほぼ同じ年齢。史実では二人は全く関わっていないので創作ですが、オリンピックを斜に見ているストーリーテラーが一年を通してナレーションをするのもいいかなって」
個人的にはそれほど大河ドラマを積極的には観てこなかったという宮藤さん。最初は大河ドラマに限定せず、「何か面白いことやろう」というところからスタートしたせいか、当初は「大河になるのかこれは?」と心配だったという。
「大河ドラマでは、合戦や討ち入り、切腹など『この人物を描くならこのシーン』という鉄板の見せ場があるものですが、無名の人たちを描いた『いだてん』にはない。そのかわりにオリンピックがあり、陸上や水泳などスポーツで見せ場を作っている。最初に思っていたよりは大河ドラマっぽいんじゃないかなと思います。」