くらし

井上荒野さんに聞く、心地よい眠りへいざなう本。

  • 撮影・青木和義 文・黒澤 彩

永遠の名作多数! 眠り、夢、夜をモチーフにした小説とエッセイ。

(1)『蜘蛛女のキス』マヌエル・プイグ 野谷文昭 訳
ブエノスアイレスの刑務所で、ゲイの主人公が政治犯の男性から毎夜、映画の話を聞く会話劇。「夜ごと映画の話をしながら二人の関係が変化していきます」(集英社文庫/876円)

(2)『大人のための残酷童話』倉橋由美子
世界の童話を著者が独自にアレンジした短編集。「倉橋さんらしい毒のある話やエロティックな話など、夜更けに読みたい、大人のおとぎ話に仕立てられています」(新潮文庫/430円)

(3)『夜の樹』(「夢を売る女」) トルーマン・カポーティ 川本三郎 訳
孤独な女性が、夢を買う男と出会い、夢を売る(話す)うちに不思議な友情が芽生える。「最後、女は売った夢を取り返そうとしますが、どうなるかは読んでのお楽しみ」(新潮文庫/630円)

(4)『白河夜船』吉本ばなな
妻帯者の恋人がいる主人公は、ある時からずっと眠り続けるように。「著者の、眠り3部作と呼ばれる初期の名作の一つ。丁寧に書かれた、穏やかな読後感の小説です」(新潮文庫/460円)

(5)『新編 銀河鉄道の夜』宮沢賢治
「子どもの頃、主人公の二人が食べる鳥のお菓子がおいしそうだと思った記憶が。読み直すと、描かれる光景がすみずみまで美しい物語。言葉の一つひとつを味わって」(新潮文庫/430円)

(6)『夢のなかの魚屋の地図』井上荒野
「タイトルも、話も気に入っているエッセイです」。魚屋の地図の夢は見なくなった母だが、その後もまだ、ある店の地図の夢を見るのだそう。(幻戯書房/2,000円*集英社文庫もあり)

毎晩、少しずつ本の世界に旅をする。眠る前にゆったりと読みたい6冊。

(7)『攝津幸彦選集』攝津幸彦
若くして亡くなった俳人の句集。「何を言いたい句なのかよく意味が分からなくても、なんとなくムードは伝わるのでは? 私は、全体的にとても格好いい俳句だと思います」(邑書林/1,600円)

(8)『庭』小山田浩子
作家のあいだでも評判の短編集。「身近な場面が、ふっと幻想的な世界に変質するところが絶妙。1作目のタイトルは『うらぎゅう』。何なのか気になりませんか?」(新潮社/1,700円)

(9)『わたしたちが孤児だったころ』カズオ・イシグロ 入江真佐子 訳
イシグロ作品の定番、“信頼できない語り手”が登場。名声を得た探偵が虚実を語る。「騙されたのか、長い夢を見たのか、不思議な読後感。少しずつ読み進めて」(ハヤカワepi文庫/940円)

(10)『必要になったら電話をかけて』レイモンド・カーヴァー 村上春樹 訳
「アメリカの風景の中で、さまざまな人生の瞬間や、そのときに生まれる感情が描かれます。絵を一枚ずつめくるように読みたい」。生前未発表の短編「夢」も収録。(中央公論新社/1,000円)

(11)『高丘親王航海記』澁澤龍彥
800年代の日本。高丘親王は天竺(インド)をめざし航海に出る。「奇想天外で夢のような物語ですが、人生論でもあるのです。土地ごとに章が分かれていて読みやすい」(文春文庫/720円)

(12)『いちばんここに似合う人』ミランダ・ジュライ 岸本佐知子 訳
孤独な人たちが登場する、どこか滑稽でキュートな短編集。「人と人との関係の儚さや美しさにほろっと感動します。『水泳チーム』という少し奇妙な話がとくに好き」(新潮社/1,900円)

井上荒野(いのうえ・あれの)●『切羽へ』で第139回直木賞受賞。最新刊『その話は今日はやめておきましょう』(毎日新聞出版)など著書多数。父は小説家の井上光晴。

『クロワッサン』977号より

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