2005年に『12歳からの読書案内』(すばる舎)を監修して以来、同タイトルで中高生向けに4冊の読書ガイドブックを上梓している金原瑞人さん。そのときの解説で書いたのが、
《ものによっては、子どもは親に隠れ、親は子どもに隠れて、こっそり読むべき本もある。読書というのは元来、危険なものだと思う》
という一節。
「親子で一緒に本を読むというのは、小学生まででいいだろうと思います。『12歳からの読書案内』では、中高生の子どもに、できれば読んでほしいけど直接薦めるのは恥ずかしいというものを中心に選びました。文科省推薦のよい子のための読書案内には絶対入ってこない。国語教育という意味でも役に立たないかもしれない。でも、読んでほしいというものを」
小学生ならともかく、中高生にもなると親の薦める本を楽しそうに読むというのはありえない。親も自分の好きな本を子どもに無理強いするのはいかがなものか、と考える金原さんが薦めているのは、
「ある意味で“危なっかしい”本。読書は元来、刺激的で危険なものだと僕は思っているので」
『12歳からの〜』の海外作品バージョンでは、『百禁書 聖書からロリータ、ライ麦畑でつかまえてまで』という一冊を紹介している。かつて禁書になった世界文学100作品を検閲の経緯とともに解説した本だ。金原さんが寄せた一文には、こんなくだりがある。
《とにかく年頃の子どもというのは「発禁本」という言葉に異様に弱い。いうまでもなく、自分自身そうだった(中略)「性的理由によって弾圧された作品」がここにはずらりと並んでいる。ヤングアダルトにとっては、格好のガイドブックなのだ。どういう時代、どういう社会において、どういう「いやらしさ」が問題になったのか、それがよくわかるし、なにより、ここに並んでいる本は名作なのだ》
今回、金原さんに推薦してもらったのは日本作品7冊、海外作品7冊。いずれも、この『百禁書』のノリにかなり近い。
「エロティックというかグロテスクというか、狂気が入り交じったような作品。今回、日本の作品と海外の作品、バラバラなものをおすすめするのも変だなと思ってリストを作っていったら、やっぱり『百禁書』のようなラインナップになっていました」
圧倒的に多いのは、男女間の愛憎を描いたもの。その中に、国内作品では中島らもの『僕に踏まれた町と僕が踏まれた町』の酒に溺れる話、海外作品ではドストエフスキーの『賭博者』で描かれるギャンブル依存症の話が加えられている。
「飲む、打つ、買うじゃないですけど、ある意味、どれも危ない話。中島らもさんの作品を除くと、ここで紹介している本を僕は全部、中高生の時期に読んでいるんです。誰に薦められたわけでもなく、古本屋で見つけて読んだりしていました」
金原さんが10代を過ごした’60〜’70年代は、中高生が変な本を当たり前のように手にしていた時代。
「高校時代に澁澤龍彦を読んでいる連中はたくさんいたし、マルキ・ド・サド、ジョルジュ・バタイユほかフランス幻想派の作品など、この手のエロスを扱った本はけっこう読まれていましたね。わかってもわからなくても読んでおけ、という時代だったんです」