『ミケランジェロと理想の身体』大理石彫刻の傑作2点が日本初公開。
文・一澤ひらり
世界に約40点しか現存しないミケランジェロの大理石彫刻。そのなかの2点の傑作、「若き洗礼者ヨハネ」「ダヴィデ=アポロ」が日本初公開となる展覧会が始まった。
「20歳を過ぎたばかりのミケランジェロが制作したのが『若き洗礼者ヨハネ』。この若さですでに古代の模範的なポーズをマスターし、完成された彫刻家であったことがわかります。この作品は悲運にも20世紀前半のスペイン内戦によって、本来の姿の約40%、わずか14の石片だけになるという大きな被害を受けましたが、最新の技術を駆使して修復され、5年前に見事に甦ったものなんです」
と国立西洋美術館主任研究員の飯塚隆さん。補完された部分は今後オリジナルの断片が発見されたとき、取り換え可能なようにマグネットで付けられているという。一方、「ダヴィデ=アポロ」はミケランジェロが50代半ばを過ぎてたどり着いた美の境地をうかがわせる作品。
「これは聖書の英雄ダヴィデなのか、ギリシャ神話の美しき神アポロなのか? 主題が謎に包まれている未完の作品です。コントラポストという片脚に重心をかけて立つ古代ギリシャ彫刻の典型的なポーズに、ミケランジェロ独特のらせんを描くような動きが表現され、実に官能的。しかも表面のノミ跡がそのまま残っているので、制作過程を知る端緒にもなるんです」
この2点の彫刻を核に、古代ギリシャ・ローマとルネサンスの作品70点を通して“理想の身体”に迫る。
「ミケランジェロは、大理石の塊の中にはすでに完成された彫像があり、彫刻家はそれを解放するのだと言っています。古代ギリシャからルネサンスへと追求されてきた、理想の身体美をぜひ堪能してください」
若年期と壮年期の傑作、見るべきポイントはココ!
①神秘的な表情
憂いを秘めた表情は英雄ダヴィデの勇壮さ、アポロの気高さとも異なってミステリアス
②官能的な「らせん」
右脚を前に、左腕を後ろに振り上げることで上半身と下半身がねじれ、らせんを生んでいる
③ゴリアテの首?
もし足下の岩がゴリアテの首なら、聖書の英雄ダヴィデなのでは? 未完ゆえのロマン。
④無垢なまなざし
焼け焦げたオリジナル部分には、ミケランジェロが彫ったヨハネの両眼が残っている。
⑤欠損した指
破壊前から欠損していたため、修復では補完されなかった。オリジナルに忠実な復元。
⑥水を汲んだ碗?
若きヨハネは後年、キリストに洗礼を施すが、そのときに川の水を汲んだ碗を思わせる
⑦コントラポスト
片脚に重心をかけて立ち、身体の動きを表現する古代ギリシャ彫刻の古典的ポーズ。この2作などに見られるコントラポストの復活は、ルネサンスの一大成果と評価される。
『ミケランジェロと理想の身体』
国立西洋美術館 ~9月24日(月)
国立西洋美術館(東京都台東区上野公園7-7) 03-5777-8600(ハローダイヤル) 開館時間:9時30分~17時30分(金土~21時)※入館は閉館の30分前まで。月曜休館(ただし、8月13日、9月17日、9月24日は開館) 料金:一般1,600円、大学生1,200円、高校生800円、中学生以下無料
『クロワッサン』978号より
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